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(愁)
~今にも終わりそうな小説掲載サイト~
Author:水瀬愁

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 力量が最低級であるバーニングレオ・ディオスは、オウに報告に参っていた。
 主は全部で三人。同胞であるのはその内の一人のみだが、血族などという制度は存在しないため三人ともを主として崇拝する形式である。
 バーニングレオ・ディオスの細胞の元となったものは、鋼鉄である。鎧の騎士だ。
 ジェネラル・ディオス。その手は槍も斧も剣も繰る。なぜそのように多彩な必要があるのか、答えは簡単――斧で届かぬことは槍で、槍で捌けぬことは剣で、剣で足りぬなら斧でへし折る。
 完全たる武とは、このジャネラル・ディオスのことを言う。
 バーニングレオ・ディオスと同格、つまり主格ではない者はこの場には後二人いる。黄泉という少女と、黒曜という男児だ。
 二人とも美形である。バーニングレオ・ディオスと同等の地位でありながら、バーニングレオ・ディオスのような猛獣じみた容姿を全然していない。
 というように、この場には合計で六人がいた。
 主の残る二人の容姿については、簡単に描写がつく。
 一人は、スライム
 一人は、ストーン
 どちらも、飛沫が集まったような、どこがコアか見分けられない肉体を形作っている。
「――報告は、以上です」
 バーニングレオ・ディオスが口を閉ざす。
 直後、水のがフフリと笑った。
「まんまと騙されてきたのだな」
 そして礫のが賛同する。
「脅威であるのは、天使エンジェルの余力がどれ程かわからぬ辺りか。天使の舞台パーティはぶっ潰した状態から、どれだけ修復されているのだろうな」
 ジェネラル・ディオスは、己の手で散らした八つの音について思い返す。
「最低でも最高でも、自動演奏機能が再搭載されている道理はあるまい。演奏が必須事項であるうちは、戦闘は不可能。きっとこのような手を打ってくるであろうな、自分は遠くで演奏し駒を繰る――奴らのよくやる手であろう」
 そしてゆらりと眼前に掲げた片掌を、強く握り込んだ。覇気が吹き荒れる。
 バーニングレオ・ディオスは、心臓を潰された幻覚を抱いて硬直している。
「我らが渇きは、癒える」
 黄泉、黒曜が口端を歪めた。
 特に黄泉は、元々張り付いていた妖しい美麗の笑顔をより清らかに魅せる。
「では、訪ねますか?」
 黄泉の問いかけ。
「否――彼女の地への移住を決断した」
 其処にいた総ては、異なる時間の流れに乗って、物語の幕開けに向かったため。


 対し、出迎える総数は、一から四に。
 一は、前戦と同じ、剣を扱う女闘神、仙童神姫である。真っ直ぐ来訪者たちに向いているのが、まるで全てを見通しているかのような不気味さを醸し出す。
 二は、獣においてこれ以上のものはないだろう巨大さを誇る男。大猩猩を思わせるその猛獣は、複合兵装超高機動プロヴィデンスシステムブロックを自在に遠隔操作してどんな敵もチェスゲームのように討つ。
 三は、少女。若い、というより幼い。身長が低いのだ。その容姿は和服に包まれており、手に握られた高等な魔術杖と文化が錯誤している。
 四も、少女。対戦車ビリビリレイキ発射器筒ューブを似合わぬ小柄な身の丈にしょっけている。
 四の少女が言う。
「ママぁー。あいつら倒すの?」
 神姫は小さく笑いかけるように、応じる。
「ああ、ぶっ潰すよ」
 それが開戦の狼煙となった。


15.


「我らの狙いはこの世界であり、貴様らとの戦闘では無い」
 四と六が対峙する此方の空とはだいぶ離れたところに、くっきりと見えるそれは八つの暗い流星が見える。
 それは地球に降り注いで来ている。それが直撃すれば、地球の表面は荒地に還るだろう。
「……我々は、時間を稼がせてもらう」
 主三つとそれに仕える十一、計十四がこの場に居れば総力戦であった。だが実際には、六しかいない。別の場所で八が活動している事実と繋げば、ここの戦闘が陽動であると気づくのは容易い。
「世迷い言もたいがいにしておけ」
 だが神姫ブリュンヒルデはその脅威を、軽く一蹴した。
 なぜなら、音楽が鳴り響いているから。
「演奏中はお静かに、と教わらなかったのか」。
「――修復が行き届いていたか」
 流星が行う世界への打突がすべて弾かれたと見て、ジェネラル・ディオスが一歩前に出た。
 遠くにいる六つが合流してくればより敗色が薄くなるというのに、世界侵略側てきはもう斬り合うつもりでいるのだ。
「まあ待て。まだ一つ、前菜が残っている」
 逆に、遠くの六つが合流するより早く斬り合いをはじめたいはずの世界守護側こちらが止めに入る。
 神姫の言葉を合図とするように、地が崩壊の悲鳴をあげはじめた。


「君の協力分、私も頑張るつもりだから、君も私の協力分、圧倒的にたのむよ――チョコ」


 次の瞬間、閃光が弾けた。
 空間を引き裂き、彼方かなた此方こなたを繋ぐ光の瀑布。
 広がった光が一点に収束する。空間の修復作用が、強引に切り開かれた世界を元の姿へと戻す。


「できるわ」


 颶風を薄く鋭く延ばし、手刀に絡めている彼女。
 彼女の登場を賛美するように、周りの風も弾んで吹き去っていく。
 彼女の吐息は、闇でできていた。
 影が纏わりつくような彼女の衣装も、妖しく黒い。闇と同等に光があるというのは事実のようで、彼女自身は雪かと思われるほどに真っ白い。瞳は風が羽を伸ばす青の聖域に染まり、髪は最高の非鉄金属という形で人を惑わせたり、天空から大地へゴロゴロと轟音をたてて激昂の思いを叩きつけるこんじきである。
 彼女は精霊でできているかのように美しい。
 彼女は、チョコ・L・ヴィータ、悪魔デビルに魅入られ、亡霊ファントムに憑依され、力を求めるが故に女神に牙を剥いた者。
 その彼女が女神と肩を並べて闘おうというのだ。
 ――天使の舞台の魔術きせきは、今まさに至高を極めたり。
 これより紐解かれる魔術の内容は、究極 の評価でも足りぬかもしれない。
 だが魔術の下、神含む十一の者らによる合戦メインディッシュへと物語は突き進む。


 初撃を名乗り出たのは、黄泉。
 チョコに類似した金髪碧眼。不揃いな髪が二つ結ばれているのは、何かの見様見真似みようみまねに挑戦したが失敗したということだろうか。
 その手が開放するのは、闇。
 対し矢を射るは、対戦車ビリビリレイキ発射器筒ューブ

 バリバリバリバリィィィィ!!!

「びびビーム、びびびビーム。にゃはーっ」
 拳銃弾とロケットランチャー弾が衝突するようなものだ。相打ちにすら、なりようが無い。と同等に思わせる前述の表現こそ、間違いというものである。
 "器筒"の一撃により、敵六人は緊急回避をとる。方法は横ステップ。左二人、右四人にグループが分裂する。
 すかさず、残った少女と巨男が左二人へ追撃に向かう。
「よっと」
 仙童神姫もそれに続く。
 遅れて跳んだ彼女だが、他二人を追い越す速度まで加速してしまったため先陣をきる形になる。
 未だ途切れぬ光線越しであるにも関わらず、右四人の一人:バーニングレオ・ディオスは彼女が動いたことに気づいて、そちらに牙を剥く。
 よって、それに真正面から受け応えたのはちょうど主三人。
 それとは、攻撃。
 または断罪。怨まれし胞に怨根を叩き込むような、醜き黒の極熱。
 暗く灼熱するそれを、真っ直ぐ見据える作用点チョコ
 手も触れていないに。故にそれは、チョコの新たなる力。瞳の魔力死へのチャームとでも呼べば、魔女に似合うか。
 チョコがそれへの睨みをより強める。
 同時に、炎が世界を喰らわんとするように膨らむ。そのおぞましい笑い声も強く大きくなっていく。
 決殺の威力が絶望を食するまで、ほんの僅かもかからない。


 仙童神姫の初撃だとつは、黒曜の刀のような黒棒に受け流された。
 予期していたようで、神姫の型はゆるやかに薙ぎへ繋がる。
 擦れ合う得物同士に火花が散り、その火花を頬で感じることができる至近距離で神姫と黒曜の鍔迫り合いは生じる。
 以前にあった神姫とチョコの場合とは、勝手が違う。力押しで勝つ必要がある。
 いや、他の方法もある。放棄うけながすことである。
 黒曜はさきに、その手を用いた。神姫の姿勢がぐらつき、隙が生まれる。黒曜は得物を持つのとは逆の手から闇を撃ち出し、神姫にダメージを加えた。
 互いに距離をとる。一度目の交戦は、黒曜の優勢――否、
「アールピージーに回復要員は付き物だよ……」
 神姫に生気が目で見えるほどみなぎる。黒曜が今になって気づく、小言を呟き続けている少女の存在に。
 神姫の言葉を関係させて思い至り、黒曜の中で優先的に倒すべき敵が定まった。
 それは黄泉にとっても同じ。黄泉は逸早く攻撃に移る。
 渾身の力を注ぎ込んだ掌底が放たれた。纏う闇も同様に面形となり、二重の刃がここに成立する。
 避ける暇も与えぬそれは、必中に成り上がっている。そのために、黄泉の一撃は命中した。
 闇が、夜空に浮かぶ彗星のような形に散る。幾ばくかのエネルギーが放散した証であるが、それがエネルギーを注ぎ込む対象を失ったためなのだと黄泉自身が解っていた。
 消し飛ばしたと、黄泉は確信のような感触を噛み締めていた。
 だが闇が晴れ、黄泉は愕然とする。
 神姫と同様に、迸る生気の光を体に帯びた少女は無傷でその場に留まっているのだ。
「自分自身を回復できぬ道理など、無い――」
 神姫の目に射抜かれ、黄泉は戦慄をおぼえる。
 同時、黒曜が再び神姫へ斬りかかった。
 その斬撃は闇でコーティングされ、威力が増している。
 だがその殺傷も、
「――単体しか回復できぬような道理も、言わずもがな」
 直ぐに、帳消しにされた。
 神姫が黒曜の得物を握り込む。その片手を背後まで振ると同時、パッと開いた。
 投げ捨てられた黒曜は、遠く遠くへ吹っ飛ばされることになる。だが神姫の目にそれが映ることはなく、彼女の牙はすでに黄泉へ剥いていた。
 黒曜と新たに対峙する者は、複合兵装超高機動プロヴィデンスシステムブロックを司る金剛力士。
 ――"箱"が神意を下すものを冠すなら、その同胞である彼の振るう体術は天譴を冠す。
 これより、大力をもって悪魔を降伏ごうぶく、否、
 破壊する。


 場面を戻す。此処は神姫が戦場。
 神姫の斬撃が迸り、黄泉がそれを避けんとしている所。だがその最中、黄泉はハッと目を見開いた。
 飛びずさった黄泉の体に、傷が刻まれている。間合いは読めていたはずなのに、命中したのだ。
 つまり間合いが変化したということ。神姫の愛剣グラディウスの特殊能力"気刃"とは、まさにそれである。本来は『岩をも両断する切れ味』であるが、音次元においてそれの差異はあまり表れない。
 神姫が突きの予備動作に入る。このままでは絶対に届かぬ間合いだ、あまりにも馬鹿らしい。
 神姫が打突を繰り出すと同時に、大気を凝縮するように生まれた蜃気楼――巨大すぎる有幻覚――黄昏色の破壊――【モノ・ラグナ】。
 捻り出された巨人御用達の両手剣"Busterd" Sword は、必ず届く間合いだ。
 抵抗・回避など、あまりにも空しい。
 故に神姫の一撃を、黄泉は甘んじて受け入れた。だが死を覚悟したわけではなかった。
「……頭が痛くなるね」
 攻撃後の硬直から抜け出した神姫が、呟く。
 散らばり、渦巻く、火の粉のような無数の点がそこら中で漂っている。それは生命体のように空間を這い回った後、黒く凝固して止まった。
 連なった点は怪異な文様を描いているようにも見えるが、直ぐにその形状を崩してとある一箇所に集っていく。
「これからが本番よ」
 形成されたものは、黄泉。
 黄泉は薄く笑いかけた。その輪郭では、まだ黒点がボサボサとざわめいている。


 さらに戻り、場面はチョコ・L・ヴィータによる処刑場へ。
 瞳の魔力死へのチャームのみが強敵三人を相手に踊り狂う。
 だが抵抗が無いわけではない。ちょうど今、惑星を殺す隕石ミーティアと物候を壊し尽くす水龍ノアの洪水を二者が放つ。
 その天変地異を以ってすれば、魔女神の滅炎もさすがにたじろぐ――そんな甘い現実は、微塵も許されない。
 水竜は呻くように身動ぎ、朽ちるように焼却されてしまった。隕石は丸々飲み込まれ、断末魔を叫ぶことすら無かった。
 ジェネラル・ディオスの最大攻撃力アックスは炎の閉ざす道を強引に切り開く。だが魔女神が微笑みを浮かべるだけの些細な間で、炎に開いたその亀裂も埋められてしまった。
「鉄壁の防御のような、最強の攻撃……万死を誘い、何を為すつもりだ」
 そして天変地異第二波。
「【ベリイドアライブ】」
「【ハイドロネオドラゴネス】」
 隕石群ギャラクシアと八岐大蛇ノアの大洪水 。
 これを相手に滅炎は軽く掻き消され、魔女神の存命が危ぶまれる事態へと進展する。
「フン」
 魔女神はその大いなる脅威を、挑発的な含み笑いでサッと見渡すだけ。
 それだけで――破滅は再誕した。
 数が四に増えていたことは、動体視力が高くなければ確認できなかっただろう。すぐに一つにまとまってしまったのだから。
 宇宙と神威の具現象は喰われ、天変地異第三波を未然に防ぐように業火は伸びていく。
 だが津波のように覆い被さった途端、天地へ爆発した。
 途絶えることを知らぬ怒涛の咆哮が伴う。
 新たな太陽とでも成るつもりか、その業火が世界を照らす。故に現世は今、不可解な紫色に彩られている。
「……絶望が世界を染め上げれば、まさにこのようなのだろうと連想させるような、素晴らしい光景ね」
 チョコは誰かに向かって呟いた。
 誰かは、滅炎を引き裂いて姿を現した。
「絶望で世界を染め上げる。それが貴女の望みか」
 この期に及んでさらに研ぎ澄まされた"畏怖すべき武"
 その隠された瞳は、隠しきれぬ眼光を対峙する者へ注ぐ。
 チョコは熱い雄の視線を受けたときのような色っぽい吐息を、ひとつだけ漏らした。
「世界では無くてよ」
「――なるほど。だが、その憎しみは鬼の道に通じてしまうぞ」
 愚問だ、と言うようにチョコが鼻で笑った。
 そして、己の手の中に滅炎をぽっと灯す。
「この炎が、聖なるものに見えて?」
「――なるほど」
 忌むべき神将が低い笑い声をたてる。
 呪われし炎神が、つられて微笑む。
 音楽は曲調を変えず淡々と紡がれている。
 狂気を愛撫する、不愉快なほどおぞましい恐怖を乗せて。


 だがこの二戦は、狭間に雷電があるからこそ分別できている。
 その雷電が消えれば、混雑は必至。
 どちらに勝勢が傾くことになるかは、神のみぞ知る事実。
 ――雷電が立ち消えた。
「びびビーム、びびびビーム。にゃはーっ」
 即座に、立ち込めた。

 バリバリバリバリィィィィ!!!

 それは黄泉を巻き込み、
天使エンジェル……終曲だよ」
 極太極光火線を背に、神姫が剣を掲げていた。
 彼女の声につられて見た者は、誰も気づいてはいまい。――そう予想し、天使は、曲を永久ループからはずして手始めに昂揚クレッシェンドへ。
 戦いに似合う、凛々しい旋律。神姫が行動を起こすと同時に、最高に上り詰めた。

 そう、神姫が剣を飲み込んだと同時に。

「ムふ……」
 飲み下し、神姫は、苦しげな顔ひとつせず、むしろ満足げな愉悦を滲ませて、すこし唇を三日月に曲げた。


 ――処刑場の主催者が交代したと、気づかぬ者らが気づくのは肉片と化した後だろうか。
 新たな主催者、剣闘士グラディアートルの神姫は滅さず、全てを地へ還す。
 故に世界は救われる。
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 咆号か、
 大気を震わす声音は、空全域に響いていく。
 おかしなことだ。存在自体が音であるのに。其にとって同胞を吐き出しているようなものなのに。まるで人間の様で、おかしい。
 其は"生きる音"
 人間と比べ上位級生命体である、同種以外には不可視の存在。
 同種――という表現は、些か語弊があるかもしれん。
 理性に対する本能のように、同一とも異種ともとれるからだ。
 なぜなら其は、上位級生命体における社会で迫害を受けた種であるから。
 其は、忌わしき欲望の化身。
 天使が言うには、怨災だと。
 その一匹狼は疾駆していた。
 摩天楼で。人の住まう異郷で。
 故に人は歓迎する。
 手痛いかどうかは、今から解る――

「スーパーヒーロータイム突入!」

 舞踏会のようなピアノ曲が響き、
 変身ツール"騎士の牝馬ナイトメーア"の煌めき、
 その後、此は一匹狼にスッと対峙した。
 中華とは程遠いが、お団子頭である子。
 服は良い意味でいうなら身軽、悪い意味でいうなら男を誘う短さしかないようなシロモノだ。意匠やリボン、レース、配色の凝り具合はとても絶妙であるが。
 手に持つ専用武器"グラディウス"は聖柄の快刀。音楽の下でのみ、気刃で切りつけることが可能である。
 ここまでのは総て、其の一匹狼の知識だ。なぜそこまで知っているのか、それは初対面ではないためである。
「五度目の邂逅、ありがたく思う。グラディアートル・サウンドが女子おなご
 其はグヒヒと笑う。
「解せないな。逃げる側が追う側に言う言葉とは、とうてい思えない。バーニングレオ・ディオスが……なんといえばいいのかな。ええと、ごめん、良い物が思い浮かばないよ」
 此は人差し指を唇に当てて、眉をひそめた。なんというか、場違いだ。
「雄とでも呼称してくれればいい。まあ、我に性別などは無いが」
「――無理だね。君は、雄と呼ぶには些か貧弱すぎる」
 そして発したその言葉に応じるように、其が顔を狂ったようにゆがめる。
 同時、此は剣を振るう。
 型は、剣先を敵へ向け自分は仁王立ちするというもの。
 前述したとおり、この剣は気を流し込むか纏うかして構成できる刃を行使する前提である。その意図するところは"間無まなしの形状"である。つまり総ての有。そのイメージから生まれるスキルは"収縮自在の刀身"
 変則的、ユニーク。そんな評価で済ますには惜しい。なぜならこのスキルは、侍が有する唯一の欠点の削除を意味するのだから。
 今、示される。
「【モノ・ラグナ】」
 剣先から残像、いや有幻覚の類が、大気を凝縮するように生まれた。
 黄昏色の馬鹿でかい刀身。それに似合う大きさの鍔と柄。全体像はビルほどあり、纏う風圧も入れれば攻撃範囲はさらに上。
 その圧倒的な一刀を前に、しかし敵はヘラヘラ笑っている。
「我は、しょせん偵察なのだ。故に我は、我を此処へ使わせた主にこう伝えることになるだろう」
 炸裂する一刀。世界の中心にも届きそうな丈を、自由落下に任せるのみで最大限生かす。横に薙げば鈍重になってしまう斬撃だが、この手法であれば目まぐるしい早さで加速する。
「……この世界の守護者は、あまりにも弱いやつが一匹いるだけだったと」
 しかし――敵、バーニングレオ・ディオスは無傷のまま、帰還を果たす。
 残された者の極大な鉄槌は、ピタリと止まった。そして蜃気楼が掻き消えるように、気刃の展開を終了する。
 その最中、世界中に響いていたピアノ曲は唐突にその踊りを止める。
「弱いやつ、か。当然だね」
 残された剣闘士グラディアートルは、口調に苦渋を滲ませぬ。
 むしろ、次の一言には喜色が窺える。
「一匹いるだけだった、か。素晴らしい観測をしてくれたものだね?」
「ですね~♪」
 剣闘士の隣に降り立ったのは、♪天使エンジェルという先ほどのピアノ曲の演奏者である。
 その真っ白い瞳は無邪気そのもの。丸々下ろされている艶やかなほんのり桜色の髪はクリクリと癖が付いていて、両方とも彼女のウキウキとした笑顔をより愛くるしく魅せる。
「さて。予定通り、最低限の情報で奴を帰らせることができたわけだが……これからが忙しいよ」
「ですね。でも、神姫ブリュンヒルデさんの頭ん中では大体の目星が付いてる、とのことでしたっけ」
 剣闘士のかざす剣は世界にとって、一縷の望み。


戦友ともは、すぐにでも集えるよ」


 これより、数筋が束となる。故に世界は救われるであろう。


14.


 仙童せんどう 神姫ブリュンヒルデは高校生である。
 ちなみに、前章で音集めに徹していた超次元アクションのあれとは兼業している。
 さて。今日は青き空だ。
 太陽が燦々さんさんと輝いている。
 むき出しの肌がこの場にあれば、堪えきれないほどの痛みを覚えるだろう。それほどに強い日差しが、照っている。
「ゴンザレス」
 そして、ビーチにあるような背もたれの傾斜がゆるいイスに腰掛け、彼女ブリュンヒルデが肩を抱くように自身のむき出しの肌を撫でているのは、少しでも痛みを和らげるためだ。
 彼女は、こんがり小麦色とは程遠い肌の色をしている。赤くただれるよりはまだマシだが、これからさらにしばらく日光浴を続けるのであれば時機にそうなる。
「水をくれ」
 故に、対策は発動する。
 対策は降り注ぐ。
 サラサラ、否、どばどば。雨というよりは滝のように、潤いは多量に彼女へと投下される。
 反射的に目を閉じた彼女は、全身にその潤いを浴びた。一気に湿気を帯びた髪をうざったそうに顔を振って払いのけ、ささやかな水しぶきを飛ばす。
 目覚めたように、彼女は座ったままノビをした。うぅっと気持ち良さげに声を出す。
 その腰つきには、汗と先ほどの水が入り混じって――上半身に付着した水滴も、流れ込んできているからか――ぬちゃぬちゃとしている。
 正反対にいやらしさの欠片もない美しい表情が、呪わしいくらいに魅力的になる。
「人間とは、温度差を愛するものだな。素晴らしい本能だよこれは。夏にかき氷、冬に鍋。寒い時にラーメン、暑い時にそーめん。うん、最高だ」
 傍にいる巨男きょじんは、魔女の痴態ちょうはつを近距離で見せ付けられたというのに平然としている。だが性欲が無いわけではない。慣れすぎているというだけである。
 彼女の傍にいることに。彼女の魅力に。彼女の体を味わう・・・・・・・・ということに・・・・・・
 耐性があろうともなかろうとも、巨男には、そして彼女にも関係はない。
「なんだ、したくなったか?」
 小さな媚声をひとつ漏らす。彼女の目は巨男の股間を舐め回すように見つめている。性欲が無いわけではないから、巨男の身体は正常な反応を示したわけだ。
 巨男がコクリと頷いた。
 途端にスイッチが切り替わるように愉悦に満たされた彼女の表情。
 目は陶酔し、口は半開きのまま、涎は垂れ放題で、故に飾り気の無い淫乱さに満ちている。
 最高に美しい。美しくないはずがない。優美ではないのだとしても、彼女が美であることは誰もが認める。
「いいよ。私をあなたのモノにして……」


 彼女は女神の顔ももつ女だ。剣を以てして熟成された幻想曲を幾つも幾つも即興し、やがては真の神すら殺すだろうおんな。芽といえどその強さは鬼を凌ぎ、模造の神なら五秒と持たずに朽ち果てることは必至。言い換えるなら、一歩ほど手前の真の神。
 その彼女が、独壇場を譲るなどというだけでなく、巨男に(あらゆるかくどから)蹂躙される(せめられる)ことを甘んじて受け入れるなど、そんな幼い売春婦のマネなどしては侮蔑を招く。天使なら堕天、捕虜なら屈服。
 今の彼女は、崇高されるには妖花すぎて、天光アーリアルを人に導くにはあまりにも牝の臭いがツンと鼻につく。
 だが何の後ろめたさも感じていないように、彼女は雄をこちらへこちらへと手招きする。
 閑話休題、牝の喘ぎ声が響き始めた此処は彼女たちの通う学校の屋上である。陽はまだ高く、人は密集している。


 好きな男を自らの魅力で篭絡し、力づくで犯させる。つまり、恋人の前でなら、女は娼婦のように淫らになる事が許されるわけだ。
 だが彼女にとって、巨男ゴンザレスは恋人にカテゴライズされない。巨男にとってもそうだ。故にセックスフレンドであると暗黙の了解がとられている。それ以外にちょうど良い単語を、二人は知っていなかったから。
 高校生らしくないその関係とは別に、彼女には、高校生らしくも、初恋の人がいる。
神姫ヒルデっ!」
 放課後であるため、大いなる一つの人波が校舎から校門へ向かっている。その人波に逆行するように、彼は仙童神姫の元へとことこと歩み寄っていく。
 愛称を弾んだ声に呼ばれた瞬間、無感情だった神姫はニッコリと微笑んだ。
 もちろんだが、高校生らしい服装をちゃんと纏っている。
「やあ、慎司。今日も可愛らしいね」
 慎司という彼は、女の子っぽい。
 別に、スカートを穿いているわけではない。それでもボーイッシュと見て取れるような、中性的な顔立ちをしているのだ。
 名前の読み方のような男っぽさ、男特有の汗くささもない。
「男にそれは死語ですぜー!」
「君は"男の"という新語を体現しすぎていて、毒だ」
 神姫は目眩を堪えるように、己の額を押さえた。表情は満足げである。"もう死んでもいい……"というような出来事に巡り合った直後のような極限の満足で満たされている。
 余計に慎司を煽ってしまうのは承知の上である。
「もうもうッ、ゴンさんとサボって屋上で昼寝してるようなヒルデなんか、もう板書ノートを貸してやんないから!」
 巨男ゴンザレスのあだ名と、慎司の思いこんだ真実。
 二つを聞いても神姫は眉一つ顰めず、笑顔も崩さない。
 ひっそりと行った情事に、何の後ろめたさも感じていないように。
「可愛いね」
「もうもうーー!」
 二度、三度とおちょくられ、慎司はキレた。
 彼の怒りは頂点に達し、神姫をポコポコ殴り始める。
 神姫は先ほどまでよりももっと楽しげに、クスクスと笑う。だが彼が殴る箇所には、服に覆われていて普段は見えないが、傷が残っている。
 胸の下に、打撲の跡や切り傷。そのうち、彼の非力な殴打にも痛みを放つ傷がある。
 その傷は、今は此処に居ない其処の住人が来襲して来たためにできたものである。
 真に近き女神が傷を負う。つまり彼女より強い敵が、現れたのだ。
 これまでに彼女より強い敵だった者は、騎神(The killer)ぐらいである。けれど今回は決定的に異なる事がある。
 それは、今回の新手は組織であって単体ではないこと。そして、彼女に傷を負わせた者は其処の概念において力量が最低級である・・・・・・・・・ということ。
 一番強い敵から傷を受けたなら、この程度では済まない。傷痕として考えるなら、それは彼女を丸々飲み込んでこの世から消し去ってしまう。
 世界は彼女一人では護れなくなっていた。

 

 

 
 

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