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(愁)
~今にも終わりそうな小説掲載サイト~
Author:水瀬愁
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気にするなよ数字を取るために必要なんだ少しの間だけ我慢してくれ。マネージャーの男が言う、ご機嫌取りをしてくる。
彼はしなくていいことをしている。いつもいつも、こうだ。
その旨を伝えてもいいが、面倒すぎる。よって無視だ――と、私もいつもどおりかったるさに負ける。
私は何も返さずにソファに身を沈みこんだ。「……早く、次の仕事をとってきてよ」
マネージャーの笑顔が崩れた。そして表情が二度も変わる。
一つ目はともかく、二つ目の表情は、私の意思を正しく汲み取ったという合図。
「ああ、すぐにでも。といっても、しばらくは下準備が続くだろうけどね」
それでもいいさ。後に、望み描く物が手に入るなら。
だが彼は、身動ぎ一つしなかった。私の隣で、棒のように立ったままだった。
何かを望んでいるとすぐにわかった。何かとは、何か。それも目を合わせた途端に、すぐ察する。
「……私、まだちょっと物足りないわ」
本音とは裏腹に、魅惑的にそう言ってみせる。床に手をつき、犬のように地面を這って彼の側までにじり寄る。
……これは彼の好きな仕草だ。彼は、言葉責めできるような淫らしい態度の女が好物なのだ。
妄想のしすぎだと思う。だが、笑い飛ばしも見放しもしない。してはならない。
私は、忠実にその妄想を再現する。
手癖が悪いと彼が言った仕草を再現――いやらしく、彼のズボンのチャックに指を添える。
足癖が悪いと彼が言った仕草を再現――だがくるりと回って、彼にお尻を向ける。尻たぶをおもいっきり、彼の欲望に押し付ける。
彼がうめき声をあげた。それで、演技が成功したことがわかる。演技が成功した後なら、これ以上の気を張る必要はない。
私は小さくほくそ笑んだ。大丈夫、彼がこの表情を見てしまうことも絶対に無い。
2.
「ばいばい」
ごめんの次にそう言って、彼は雪景色の向こうに消え去ってしまった。
私は白い息を吐いて、自らの手首に巻いた腕時計を見下ろす。
「もう、イヴは終わっちゃった――」
皮肉だ。聖夜が過ぎた後に、こんな無力感しか残らないだなんて。
聖夜は、もっとロマンチックなものだと思っていた。イヴの夜とは恋愛の味方なのだと、過信していた。
でも、神様の仕打ちも酷い。私が夢見がちであったことは認めるけれど、この世界で生きることに嫌気が差してしまうくらいに私を痛めつけてしまうだなんて。
「どうしよう、これから」
自棄を起こして食いまくるか。それか、一人部屋に閉じこもって枕を濡らすか。実現不可能だけど、豪華なレストランで食事ってのも良いな。
でも、思い浮かぶイメージのどれもがしっくりこない。その結果、輝かしいイメージを思い浮かべて、逆にもやもやしてしまうという、おかしなことになる。
全部いいはずなのに、何か一つが欠けているように感じる。それが私を物足りなくさせる。
なぜなのだろう。
「あ――」
いいや、解らないはずが無い。何てったって、欠けているそれとは、私にとって大事すぎるものなのだから。
ううん、違う。
「雪――」
そう、
何もかもが変わっていく世界の中で、変わって欲しくなかったものまで変わってしまった。その事実は、とても受け入れがたいけど、前を向くためには受け止めるしかない。
受け止めれば、ちょっぴり泣いてしまうだろう。蹴躓いた子供みたいにわんわんと、ちょびっとだけ。
でも四季の流れを感じるよりずっと早く、その涙は乾く。跡すら残らないはずだ。
私の胸を満たす悲しみも、涙の跡と同じ末路を辿り、萎んでいくに違いない。
そんなものだ、失恋の痛みなんて。
「――せっかくのホワイトクリスマスなのに、君といっしょにいられないだなんて」
そう呟いたとき、声を聞いた。
突然のことで意味までは聞き取れなかったが、確かに私は声変わりしていない少年のような声を聞いた。
吃驚して辺りを見回しても、誰もいない。当然だ。聖夜と聖日の狭間にあるようなこの午前零時どきに、駅前に人がいるとすれば、その人は敗北者に限る。
私のような。
「……(こく?)」
今一度、前後を索敵する。だがやはり、人影すら無い。
不可解に思いながらも、私は気にしないことにした。そして、泥沼のような物思いから抜け出せたのをこれ幸いに帰宅の道を歩み出す。
少しして、次は不意に何かが肩に乗るような感触があった。
何かが肩に乗っている、気がする。何が乗っているわけでもない、でもずっと重みを感じる。イヴの出来事が疲労となっているのだろうか。
まあ、正体が掴めないのでどうもできない。
更に少しして、私は自宅の玄関へとたどり着く。
「ただいま」
ドアノブを回し家に入り、リビングでくつろいでいた親の小言も軽く
そして漸く、私は痛みを取り戻した。
「う……くぅ……っ」
泣きたくてたまらない。おかしいと思わずにはいられない。
起床とともに淑やかに想い、
朝陽の差す頃から夕陽が落ちるまで手を取り合い微笑み合い、
月影が夜を淡く溶かす頃も夢で一途な想いを告白する。
恋人でもないのに、彼はそんな傍らまで近づいてきてくれたから。
私をこれ以上ないってくらい、夢中にさせたから。
「イヴの夜に一緒に居てくれたのに、なんで――?」
変えてしまいたい。壊れてもいいから、変えてしまいたい。
世界を思うがままに、変えてしまいたい。
「――え?」
私はまた声を聞いた。今度ははっきりしていて、意味まで聞き取れた。
願いを叶えてあげる、と。
尚も渋る私に、♪天使はこう提案した。
「チュートリアルを受けてみませんか♪」
テストプレイしてみて、できそうだったら今後とも行えばいいとのこと。
「さあ、いつまでも話ばかりというのもなんですし、身体を動かしてみましょう!♪」
ちなみに、私に選択権はないようだ。
まばゆい光が視界を埋め尽くし、頭が殴打されたかのように思考が鈍くなったその次の瞬間には、私は立っていた。
どこに。――どこだろう。
何処だ此処は。
月や星の明かりはまるで明滅するように、濃く薄くを不規則に繰り返す。青白く照る摩天楼。人気はない、どころか凍えてしまいそうなほど寒々しい。体感する温度の話でないのが幸いだろう、肌寒い程度でも風邪気味になってしまうほど私は貧弱体質なのだ。いや私の事はいいか。
『あそこに敵がいます。倒してみましょう♪』
「その声……
私はきょろきょろしようとした。それより早く、私は、片頬の血の気がサッと引く感覚に吃驚する。
咄嗟に振り向いた。その視線の先に、とりあえず何かがいた。
少年のような容姿と背丈、しかし纏っているものが明らかに毒々しい。
棘のある鎧に、棘のあるガントレット、銃刀法に真っ正面から刃向かうような大剣、異界要素盛りだくさんである。
あの人が敵なのだろうか。私は迷った。
『いや、ここにはあの人しか見当たらないですし、迷う必要なんてないでしょう?♪』
「それは極論だ。探せばまだ何か見つかるかもしれない。」
『そうですか。なら補足説明しましょう。あの人が、敵です♪』
ふむぅ、私もそんな気がしてきた。だってあの人が大剣を構えたんだもの。
向こうに敵意があると解れば、私に反論の余地などない。だが新たに問題が浮上した。それは結構、重要かもしれないこと。
――どんな決めポーズをとれば変身できるのか、わからない。
『変身ベルト役の私をどこかに身に付ける、って所が最初の段階ですかね♪』
「……そういえばそうだな」
あの人が黒い霧みたいなものを纏い始めている。闘気だろうか。あれを射出してこちらを攻撃する算段だったなら、もうそろそろ変身しなくてはいけない頃合だろう。
行動への移行は迅速に済ます。私は押しつぶす勢いで、天使を胸に掻き寄せた。
――コォーン――
摩天楼から一つ、直立するビルが消えた。黒い弧に二分された後、黒霧状になって蒸発してしまったのだ。
弧はビルの丈と同等、またはそれ以上という圧倒的巨大さを誇る"飛ぶ斬撃"
見た目に相応する威力が実証されたわけだ。
その射出主は、振り切った大剣を手元に引き戻す。それと同時に、柱のようにそそり立つ霧の中から人影が飛び出した。
それは弾丸に勝るとも劣らない速度でビルの壁に向かい、跳躍する。切って進む風をそのまま纏って、壁を蹴り、更なる宙の推進力を補充――己が望む方向へと推進する。
ゆるゆると、それの纏う風から不透明の霧が除かれていった。あらわになるそれの姿。紅いミニスカートからは白いハイニーソックスで包まれた長い足がのびている。怒りに燃える瞳でこちらを睨んでいる。
勝ち気そうで、まさに正義の少女といったところ。
彼女の両手が残像に変じる。
電光石火のクイックドロー。腰の両脇にくくりつけられた横向きのホルスター二つに秘められた"光"へと手を抜き差ししただけに見える、投擲モーション。
それによって、硝子小片が五・六、宙に解放される。
精密射撃の物が数個と、予測射撃の物がこちらも数個。だがどれも大剣士をぶち抜く弾丸にはならず、海を渡来する鳥のように横切るだけだった。
大剣士が、予測を裏切る速度で跳躍し、回避行動を行ったから。理由は、たったそれだけ。
そう、この戦いはそんな次元だ。戦略の存在し得ない、力のみが存在感を主張できる超越戦闘。他者を屠るために必要なものはたった一つ、小手先でない実力。たとえば"飛ぶ斬撃"や"弾丸速度の短剣"がそれに当たる。
まるで獣のように咆哮を放ち、自己を思い知らせよ。――そう、戦闘開始の火ぶたはすでに切られたのだから。
少女は、言った。
「……詐欺だ」
その片手が、鬱憤を晴らすようにもう一本だけスローイングナイフを引き抜き、手首を回す動作だけで投げた。
手近にあったビルの壁に突き立った。そして――ビルは崩壊した。
「なぜ『へ・ん・し・ん! まじかるちぇ~んじ♪』と叫ばせてくれない。決めポーズがいると初めに言ったのは、ほかならぬ天使じゃないか」
まだ怒り冷め切らぬ様子で、少女は独語。その手はわきわきしており、次の瞬間にもう一・二本は武器を取り出しそうだ。
「っていうか、なぜに肉弾戦仕様なんだこの変身は。エク○アか? 作者はガンダム○0スキーなのか? だからヒロインに可愛らし~い魔法少女コスプレをさせてくれないのか?」
その不満点をじゅうぶん解消してくれそうな今のコスチュームだが、確かにステッキも二股の帽子もない。月に代わってお仕置きよ等の発言に不相応な見た目であるのも、また事実。
「……まあ、いい」
少女は細めた双眸で、敵を見下ろした。
「鬱憤はここで、全て吐き出す。題して『憂さ晴らし』」
そう告げる少女の声は、ゲームを楽しもうとするプレイヤーのそれ。
――コォーン――
"ド"と"ミ"の音が同時に、響き渡る。まるで展開範囲を奪い合っていがみ合うかのように、その二つはいつまでもいつまでも余韻の尾を引く。
だが、その場にいる当事者の二人の耳には、その音が届いていないだろう。少年のような容貌の大剣士は緊迫した様子で眉一つ動かすことなく、ジッと、少女を見ている。少女も同じように、大剣士を見ている。
「――クッ。ククッ、ひ、ヒヒッ」
突然、少女は笑った。唇を引き上げ、酷く不気味に。
次の瞬間、少女は
その手にはすでに薄く小さい兇器が握られている――
「ッ!!」
そして、雨のような広範囲射撃。
だが大剣士は、己が身を得物の下に匿う事でやり過ごした。冷静かつ適正な判断と見て取れる、少なくとも咄嗟に範囲外まで逃げ出そうとして軽傷を負うよりかは。
まあ、どちらも正しい避け方ではないのだが。
大剣士のミスは少女を見続けなかったこと。一瞬の雨が止んだ後にはもう、先ほどまでの宙に少女は留まっていなかった。
となれば時間が食われる。索敵のための時間、必要かつ必至なる数コンマ。
少女はその隙に、大剣士の背後をとった。
極小の兇器からの斬撃。深く抉りこむことは勿論叶わない。むしろ少女も、そこまで高望みはしていない。
「私もね、この力を扱うのは初めてだから、知ったときは驚いたのだけど――」
大剣士が身を引いて、少女との距離をとった。少女は追撃しない。それどころか、戦闘姿勢もとらずに、不敵の笑みを浮かべている。
「――剣使いは、剣を自在に扱うことができる。そう、其を突き動かす、其に孕まれた、加速度すらも」
次の瞬間、大剣士の背中を五つの"突撃"が射抜いた。
だがここで、少女にも誤算が生じる。大剣士は痛みに、動きを鈍くしなかったのだ。
ここで思い出して欲しい。少女の極小の間合いと比べ、あまりにも広い大剣士の
そう、大剣士と少女との距離が、互いの得物が届かない程であっても関係ない。少女はまだ大剣士の射程内にいるのだ。
「――ッ!!」
ビルを砂塵と化す偉力が炸裂する。
それを見て取ると、少女はすぐに踵を返した。全力疾走。"飛ぶ斬撃"を置き去りにする。少女は、進行方向にあった壁に足から着地した。壁がクレーター状にくぼむ。
少女は深く足を屈伸させる。そして、できたクレーターの縁に足裏を滑らせ、壁と水平に跳ぶ。
"飛ぶ斬撃"はビルを両断した。その時に、少女はビルの上方へ。
"飛ぶ斬撃"から受けた負傷で、ビルは蒸発した。その寸前、少女はビルの屋上を踏み込み、自身の蒸発をなんとか回避する。
少女は別の、他とは少し低いビルの屋上で、大剣士を見据える。
「……黒い弧は、大きすぎて、こちらのどの一手でも、相殺どころか、弱体化すらままならない」
そして、少女はクスリと微笑む。
「だがチェックメイトだ」
その瞬間、大剣士はスローイングナイフに貫通された箇所を中心に空間に縫いとめられ、束縛された。
スローイングナイフが"自在に扱われた"のだ。大剣士は回避の行動を奪われた。
次いで、少女から真正面に放たれたライフルじみた弾丸が五つ。
先ほど述べたとおり、大剣士には回避ができない。だが腕が自由であるままなのだ、迎撃ができぬ道理はない。
再び絶望的な何かが、一筆で描かれた――それは迎撃の役目を、かるくやり遂げる。
しかし、対消滅の先に、大剣士の対峙すべき者はすでにいない。
その意図するところは簡単、フェイントということだ。
得物を振り切った大剣士。その背後。広げた翼をはためかせるように、少女が放つ。放つのは、片手に三本ずつ指の又に一本ずつ握る今までどおりの"
そして、少年の痩身に、六つの穴が穿たれた。
『気分はどうですか?♪』
確認を求めるように、天使が私を見てきた。
下を見れば、敵の人影がゆっくりと倒れてビルから転げ落ちるのが見えた。
摩天楼の天辺にいる私は、堪えきれず、笑みを満面に浮かべ空を仰いでしまう。
嘘のように身に滾る力。嘘のように冴えた思考。まるで夢を見ているかのようだ。そう、中心である私すらも変革され道化師となった、道化師しかいない夢だとしたら全て説明がつく。
人間離れした身体能力が全部嘘で、それを自在に駆使したというのも全部嘘、全部が全部夢であれば理解できる。
「最高だ――」
しかし、この快感は嘘ではない。
故に私は、またこの夢を求めてしまうことだろう。
理解できずとも構わないと、柄にもなく本能的になってしまうことだろう。
クリパとは現実逃避の次元が違う。
ハマっちゃった。
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0.
ばいばいー、またねー、と口々に一言。私はそれらに笑顔を振りまくことで応え、最後に手を振ってみんなを見送る。
私は独りになった。その途端の寂しさといったらツライことこの上ないが、そんなものは瞬間風速より一瞬である。疲労困憊のせいで寂寥感なんて吹っ飛んでしまった。
しかしいかんせん、あれだけ騒いでおきながら、クリパ二次会に繰り出せる
私は白い息を吐き、帰路に目を向けた。そして、小さい歩幅ながらも一歩一歩進み出す。時折吹く寒風に身を縮み込ませながら。
それに何より、この独りっきりは寂寞の方が正しいと私は思う。同じ字であっても、寂寞には物悲しさが表現されないから。
私は淋しくなどない。
ネオンの光に彩られた街から離れ、少し歩くだけ。それだけで我が家に辿り着ける。ほらこの通り、五分とかからない。
住宅街の端(つまり隣り合う繁華街に一番近い場所)の家を選んだ親に感謝したくなるが、常日頃の通学の面倒さ(バスに乗るのだが、バス停までは走って十五分ほどかかる)を冷静に思い返せば相殺、それ以上である。
コンチクショウめ。
「ん……?」
ドアを開け進入、外の寒さとかけ離れた
その間、私の思考回路は今日一日を勝手に振り返りだした。
最もDiaryに記すべきは、独り身な者が集まって馬鹿騒ぎするクリスマスイヴパーティに参加してきた事。
参加した理由はなんだっただろう。朝の起床時、カレンダーの日付から「今日はクリスマスイヴか……」と思うと同時に最近観たドラマの一シーンをふと連想してしまい、自分の生きる現実とのギャップを見つめ直してしまった所為かもしれない。
それか、体がぷるぷる震え出してしまいそうな冬の寒さが心に沁みた所為かもしれない。
しかしクリパが始まって三十分もしないうちに、私は他の参加者と"独り身"と同じ括りにされるのでさえ嫌になって(盛り上がり方が異常だったんだよ……)一次会がそこそこに終わり場所を移す(つまり二次会スタート)時を見計らって逃げ出した。のんびり過ごすのが、私の性に合っているらしい。べつに、イベントデイに日常とは違う刺激的な(甘酸っぱいなら尚良し?)何かが起きてくれてもいいんだが。けど負け犬の遠吠えみたいなテンションのパーティは嫌なんだよ……
自室のドアも開けたところで、私は違和感を抱いた。
いや、見たままに伝えるなら"違和感を見た"と言うべきか。
私の真ん前(数歩先ではあるんだけどね)にある机の上に、"違和感"がぽんっと置いてある。"違和感"は箱、飾りつけされた掌大の白い四角柱――
――だった。地の文で描写し始めた時は。
描写が終わりを迎える直前に、"違和感"は形を変えた。
「はっじめまっしてぇー♪」
羊のようなもこもこした生命体が箱から飛び出し、そのまま宙で浮遊した。
その生命体は、現実には在り得ない真ん丸い図体をしている。ってか、手が無いように見えるとはどういうことだろう。
浮遊しているというのも、何かおかしい。羽がぱたぱた動いているので浮遊の原動力はそれなのだろうが、羽は体を浮遊させるにそぐわない大きさである(私の小指もない丈)。
何だこれ……。
「神聖御霊序列第八位属性・亜種"
私の心の声を読み取ったかのような返答を有難う。しかし、最初の何位だとかいうのが全くわからない。
1.
「――君は、壊れたピアノを直しに来たと言ったね」
「あいですー♪ 人間は視覚情報の受信範囲に音波を含まないので、現物はお見せできませんですがー?♪」
ココアを啜る。ふっと息を吐く。
「……音波がなんちゃらかんちゃらは兎も角として、だ」
ココアの温か味が体にじわじわ浸透していくのを感じる。それはいつもなら心地よいのだが、今の私の心理状態には黒画用紙に塗る墨なみに無意味だ。
私はジロリと♪天使に目を向けた。「私はピアノ修理などのスキルは無いよ」
「いえー、人間界での用法とは異なるのでー。それに、あなたにしかできないことなのですよー♪」
「やっぱりそうくるか」選ばれし者であると判明する。素晴らしいくらいに王道展開でアルな。
「……それで、私は変身でもして悪の化身と闘うのかな?」
皮肉口調で呟く。すると♪天使のもこもこが、びよ~んと左右に伸びた。
もしや、人間でいう"ビクッ"なのだろうか。
もしそうなのなら、図星だったということの証明になる。
解釈の仕方に戸惑う必要はなく、
「……い、いえ。調律の回数はそれほど多くない場合もあると思われますです。ええ、戦闘になる確率は高いですがべつにそれが主な役目ってわけでなくてー♪」
すぐに、もっと明確な情報が提示された。どうやら、
承諾か否かの前に、ピアノ修理のためのプロセスを説明してもらった方が良さそうだ。
私は足を組み替えた。その動作の勢いで目の前の机からちょっと離れる。
座っているのが移動用に車輪もついた回転イスだったためだ。こういった些細な作用は、結構邪魔である。今のように、肘を突けない程度に机との距離が空いてしまうことが多い。
本来なら教科書やノート、悪くても漫画や雑誌が置かれる机の上には、今は居座るモノがいた。
♪天使。者などという人型ではなく、物なんて無機質でもなさそうな、非現実的なモノ。
「あ、え、どうやってピアノを直すか……ですか?♪」
疑問系におんぷ付ける口調が、すごく神だ。
「そ、そうですよね、言わなくちゃならないですよねー。や、やっぱり、"とにかく丸め込んで巻き込んでみる"なんて方法は駄目ですよねー♪」
「勿論だ」
「わ、わかりました。説明するです♪」
♪天使は大きく息を吸った。そして、話し始めた。
「ピアノはただ音が出なくなっただけで、部品が破損したわけではないのです♪ 音が出ない理由は、単に"音が逃げ出しちゃった"というだけ♪
この世界の何処かに潜んでいるということまでは判明したので、あなたにはそれを集めて欲しいのです♪」
「……それのどこに、戦闘が絡むんだ」
音を集める、別の秘密結社でもあるのか。
「音は、嫌なねいろに変わっちゃうことがあるんです♪ 嫌なねいろというのは、手当たり次第めちゃくちゃにしちゃう怪物みたいなもの♪」
ふむぅ、まさか音が怪物になるとは思わなかった。
そう驚くと同時に、私の中で答えが出た。
「せめて鬼ごっこレベルなら私にもなんとかできたかもしれないが、怪物を倒す実力はない」
頼られているのにナイナイ返答ばかりで、少し心苦しくなる。だが本当のことだ、言わざるを得ない。
「いえ、力はこちらで用意しますですよー♪ っていうか、あなたにもう宿っています」
「……何?」
「人間界の情報で比喩するなら、変身ライダーですかね♪ 私が変身ベルトの役割で、あなたに宿る力が変身カードになるのです、そしてあなたが決めポーズをとって変身なのです♪」なんて解りやすい比喩。けど、私の疑問に答えてはいない。
「どこに力があるんだ」
私はイスから半分以上腰を浮かせて、身を乗り出していた。表情にも力が入ってしまっていたのか、♪天使がまた左右に伸びてしまう。
元に戻った後、それは何事も無かったかのように返答した。
「そこに、です」
私の、丘になった双胸のつくる、くっきりした谷間を見つめて。