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(愁)
~今にも終わりそうな小説掲載サイト~
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17.


 黄泉の見上げる先で、シャンデリアが煌々と照っている。
 黄泉は視線を下ろす。金の装飾が施されたイスが四つ、真っ直ぐと黄泉を見つめる瞳が二つある。
 神姫の、何もかもを見透かすような力満ちた眼。黄泉は恐れるでもなく、むしろ微笑みすら浮かべてそれに対峙している。
 まるでチョコ・L・ヴィータのように。
「よく来てくれたね。ていうか、君が素直に来てくれるとは予想外だったよ」
 眠かったんじゃないのかい? と神姫が首を傾げた。親しげな様子だ。
 黄泉も笑いかける。そして神姫の隣へ腰を下ろした。
 ――どうやって暗殺を行うか。
 黄泉の存在粒子は硬化も可能である。本体から分離して小さいものを硬化させれば、ナイフのように扱うことができる。
 黄泉にとって、今の彼我距離は必殺の間合いと呼べる。迷う余地などない。即座に決め込んだ。その瞬間、黄泉の掌に小さな小さな刃が生まれた。
「今回来てもらったのは、他でもない。例のパワーアップ・・・・・・の件だよ」
 黄泉の手が止まった。
 黄泉の脳に駆け巡った思考は、あまりに高度で鬼才なものだ。だがその思考の導き出した結果は、凡人のようなもの。
 より強力な力をこの手に、と。
 生物であるが故に、たとえ人外黄泉でも甘い蜜の誘惑には抗えないのか。
騎士の牝馬ナイトメーアは持ってきたね?」
 神姫の問いかけに、黄泉はコクリと頷く。そして、とある携帯道具を懐から取り出した。それは、チョコから奪ったものだ。
 黄泉の知る限りでは、その携帯道具はまるで全戦闘能力のコアだ。
 エレメンタルリロードの項目を選択することで、人を超越した力の行使が可能となる。だがここまででは、全力とは言い難い。全力になるには、一つ段階が足りないのだ。チョコでいえば、魔眼を行使するためにさらにタップザベルという項目を選ぶ必要がある。この項目の効果によって、変身とは別の音を自らに付加し戦闘能力を増強する――はず。というのが、黄泉の憶測である。
これナイトメーアに、機能を追加する」
 神姫は黄泉に手を伸ばした。
 黄泉はそれに、神姫の手が触れてから気づく。
 そして、黄泉は驚く。神姫がまさぐるのは、人でいう敏感な部分・・・・・だったのだから。
「その前に、私と君の関係性をはっきりさせておこう。うん、それがいいよね」
 黄泉は人ではない。神経に遠浅はない、どころか通ってすらいない。
 なのに、黄泉は淫靡な快楽を得た。読みの神経を球とするなら、神姫はその表面をサッと撫でたのだ。
 黄泉の瞳が潤む。
 彼女の脳裏で警報が鳴り響いている。当然だ、一度の愛撫で彼女の殺気はすべて削がれてしまっているのだから。それだけに納まらず、作り上げた刃は霧散してしまい、彼女の精神の不安定さを物語る。
 それだけの恐怖を感じている。
 だが心が蕩けてしまうのを、止める術が無い。
 まるで運命のように――そして黄泉は、ふと悟った。
 これは運命であるのだ、と。
 なぜなら、運命は神が操るものだから。
「チョコ」
 宇宙を秘めたような瞳で真っ直ぐ見つめ、優しい微笑みとは裏腹に官能的な吐息を漏らして、その女神は黄泉にゆっくりと力を込めた。
「チョコ――」
 結果的に、黄泉の体が押し倒される。黄泉の抵抗はない。黄泉はただじっと、間近にいる人をとろんとした目つきで見つめているだけだ。釣られるようにしてその人も身を倒す。布擦れの音がいやらしく響く。
 もし冷静な目がこの場にあれば、二者の立場はあまりにも明白に映っているだろう。
 恋人同士捕食者と獲物、という様に。
 実際に、第三者の冷静な目がこの場に向いていた。


「あの娘、腑抜けにならないといいけどねぇ」
「……心配ない。陛下なら、そのようなヘマはしない」
 身の丈が小さな女の子と、反対に人間とは思えぬほど巨大な男。その二人は味方同士であるはずなのに、二人のいる場は息の詰まるような殺気で満ちている。
 だが、殺し合いはしない。
「それに、娘とは呼ぶな。あれ・・の擬態能力に惑わされることになるぞ」
 男は注意の言葉を続ける。だが、男にもすでに分かっている。
 黄泉あれが敵として立ちはだかることは、もう無い。と。


 あまりの快感に、黄泉は心から身震いする。理性、もとい思考力などというものはとうに削ぎ落とされている。
 暗殺という使命感も、本能の疼きの前では無力だ。
「さて、それじゃあこれナイトメーアは預かっておくよ。パワーアップ機能を追加するのにはしばらく時間がかかる。できれば仕事に戻らずに、ここにいてくれると私としては嬉しいよ」
 いてくれるなら毎晩くるよ、と言い残して神姫は去った。黄泉はオブジェのように、後のまま指一本うごかさない。
 黄泉は不思議な気持ちでいた。人で喩えるなら、死して初めて神に会うような気持ちだ。屍は動かずとも、天に昇りゆく心は頭を垂れる。
 崇高なる女神に懺悔する感動に満ち満ちた瞳で、シャンデリアを見上げている。
 快感に潤んでいた頃とは別物のようだ。勿論、初めにシャンデリアを見上げたあの時の瞳とも。

 ここにいる黄泉は、まるで玉座の主にいつく騎士。



 冷たい風が顔をかすめると同時に、顔に何かが当たった。体が反応できぬ間に、それは顔から落ちていく。
 彼は地面に目を下ろした。赤い影が這い回っていた。無数に動き、蠢いている。それは生理的嫌悪感を呼ぶ。血溜りと同じ、鉄の錆のような悪臭が鼻につく。
 風とともに影が去り、地肌があらわになる。そこに現実を見い出し、彼は少し落ち着くことができた。
 そして前を向くと、彼の目に龍の屍のような巨像が写る。
 それは今も生きる巨大樹、異形なる桜だ。
 上へは平常どおりに咲き誇り、地へは侵蝕輪廻を壊すように根を蔓延らせる。
 ただの根ではない。踏む所歩く所すべてこの灰色なのだ。根は量も規模も大きさもただ事ではない。
 宙に飛び出た根の先っちょには、人を丸呑みできるほどの大輪が付いている。
『来訪せし者よ――』
 風が吹いた。
 彼は驚き、慌てて振り返った。
 風の少年ミストラルが何に臆することもなく、言葉を続ける。
 少年の言葉は、彼に広く深く染み渡る。本来の大樹の根に似ていると、彼は思った。
『――汝は、死んだ。死して尚、何故に何時に何処に、汝は這い寄ろうとする?』
 冗談じゃない、と。
 彼は混乱した様子で言い返す。
「これからなんだぞ!? 俺は、これから楽しい人生を歩むんだぞ!? こんな、こんなところで終わってたまるかっ! 俺はまだ生きるっ! まだ生きるぞっ! 誰が何と言おうと、俺は死ぬことを受け入れないっ! 居もしない神の意思に、この俺の壮大な予定を狂わされてたまるかっ!」
 掻き毟るような彼の声は、悲鳴も同然である。
 それに感化されたのか、少年はうんと頷いた。
『良かろう。お前は再び生きるがいい』
 少年は彼から目を離すと、大花へ手を突っ込みごそごそと何かを削ぎ取った。それを懐から出した布にくるみ、布に予め縫われていた紐をきゅっと絞ると、小さな袋が完成する。
 もっていけと言うように投げ渡され、彼はおそるおそる袋の中をのぞき見た。
「……種?」
 風が吹いた。地面にあった赤い影が、彼の視界を覆う――否、彼を丸ごと包み込んだ。
 彼は恐怖に総てを飲み込まれた。


「ん?」
 ドサッという音を聞いて、年配の方の研究員が顔をしかめた。
 若い――といっても、十分に老いてはいる――方が振り返る。
「どうかしたか?」
 口調が親しげであることからして、歳の差はあれど友人の仲なのだろう。
「いや、誰かが倒れたような音がしたような……」
「何? やれやれ、またドジった奴か?」
 二人のように集中力が散漫しやすいダメ組は計画的に休憩をとってしまうが、それとは違い、研究者こそ本分というエリート組は体を壊しやすい。
 若い方は優しく、倒れてしまっただろう"エリート組"の様子を窺いに腰を上げた。
 残った方はゆっくり、ゆっくりぬくいコーヒーを啜る。


 若い方はすぐに要救助者を見つけた。
 予想通り"エリート組"だ。だが、倒れたわけではなかった。
 研究のしすぎで気が狂った、と推測し、予定通りまず仮眠室へ連れて行くことにする。まず休養、ということだ。
 そして伸ばした手が、指先が、チクリと痛みを走らせる。
バグズ……?」
 赤い虫が噛み付いてきたのだと知り、余計に不可解さが増し、決定打というようにある物を見つける。
 それは小袋。今となっては珍しい、手触りの良い布製の小さな小さな袋。小石では六つも入らないだろう、と彼は思う。
 口を開ける。中身は、桜色をした種だった。
 口を開ける。彼はポイッと、その種を自らの口に数粒投げ込んだ。
 焦るようにガリガリと噛み砕き、ゴクリと飲み下す。

心は奏者に再利用、体は兵士に再利用
 突然、二つ目のドサッという物音がたった。
 さすがにこれには無視を決め込めず、コーヒーを置いて若い方を追う。
「おい、何かあったのかっ?」
 少しして、理解不能な光景が広がっていた。
 床に倒れ込み、ビクビクと苦しそうに痙攣しているのが二人。だがどちらも、幸せげな顔をしているのだ。
 そう読み取った瞬間に、顔は苦痛をにじませるものへ代わった。二人とも同時に。そしてまた、今度は悲愴な面持ちへ。
 なんだ、なんなんだ。
 彼では、もう言葉にすらできない。
 その時、彼の足先が小袋にぶつかった。彼が小袋の存在に気づく。訝しげに思い、小袋を拾い上げる。
 それと同時に、彼はハッと閃いた。
「そうかっ! これは、ここで研究していたやつの開発したばかりの新薬なんだなっ! だが未完成の、しかも有害な毒薬にしかなっていなくて、開発者が死んでしまった。そのときの音を聞きつけたこいつも死んでしまった。ならば、その音を聞きつけた自分もまた、」
 彼は難問を解いたような嬉しげな顔で、小袋を開けた。
「死ななければならないっ! そうに違いないっ!」
 そして種を飲み下した。


 種に導かれ、彼は真っ黒な部屋にやって来た。
 薄汚れた研究服からいつの間にか着替え、今の彼はダブルスーツを着ている。イスに腰掛けていることで、目の前にあるグランドピアノの鍵盤はちょうどいい高さだ。だが彼に演奏のスキルは皆無である。
 戸惑う彼は、小さな震えに見舞われる。
 チョークがカタカタと揺れるていどで、均衡感覚が狂うほどではないが、彼はギョッと目を見開いて驚いた。
 彼よりももっと見開く、無数の眼を。
 この部屋の壁が真っ黒であったのは、閉じられた眼の瞼が黒色をしていたため。隙間なく眼が開いている今、部屋はむしろ真っ白い。
 彼は落ち着き無く辺りを見回し、諦めるように鍵盤へ向き直った。
 直後、彼の頭が破裂した。
 取って代わるようにたくさんの目玉が内側からあふれ出す。
 男の裏声の、奇妙な嘲笑いが響く。ここにあるすべての瞳が、微々ではあるが、感動して揺れる。
 彼――否、彼だった者が演奏を始めた。


 巨像のある、赤い影の纏われた、風の吹く、少年のいる、世界で。
『住人よ、はばたくがいい』
 少年が囁いたが、少なくとも物語はこれに応じてはじまった訳ではない。


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