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(愁)
~今にも終わりそうな小説掲載サイト~
Author:水瀬愁

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 夜闇が満ちる世界。
 "ガブリエルの翼"から二閃が伸びる。
 それを構成するのは、一個のではなく無数の。故に直撃には多段の音を伴い、照射という態勢が面的圧力でなく切断に該当する。
 『龍大撃砲ヘルーク』と呼ばれる、剣の女神が扱うのにらしからぬ烈波レッパだ。
 それは紙っぽくて、クレヨンで塗られてるぽくって、幼稚な、けど凶暴っぽそうな怪獣を荒削りしている。
 だが、見た目以上の鉄壁ぷり。怪獣は防御だけでなく、攻撃に移りそうですらいる。
 攻撃手段は、今も口蓋から漏れる吐息を全力開放するものであろうか。もしそうなら、大地を焼野原にせぬために一撃も撃たせてはならぬ。
 なら時間をかけてはならない。女神はより強力に。
 形が、空を独占する超常水準にまで肥大化する。
 そして強化された主砲が二撃目を発つ。怪獣はそれまでとは違い、唸り声を上げて苦しむ。顔も苦しげなのだろうが、全身を閃撃が包んでいるために予想しかできない。
 怪獣が霧のように消えた。女神に倒された故の、抗えぬ末路だ。
 女神は達成感を振り切り、怪獣の間近へ寄る。消えるということの余韻を、間近で観察するためだ。
 夜闇の中だから見逃してしまいそうになる、黒い炭。幾つも幾つも、無造作に飛んでいる。少しすれば風に乗って、だけど重力に逆らわず落下していくだろう。


「……やはり、紙のようだよ」
 足場にトンッと降り立ち、変身を解いた女神。いや、少女。
 そして、同一化を解いた天使に向く。
「イラストモンスター、と言ったところかね。前に出遭った"音っぽいもの"と同種と考えてよさそうだ」
「ほむぅ♪」
「"濃厚な力を発してるから本物かもっ"と再三再四言い切ったのは、どこの誰だ? あァ?」
「ほむぅぅぅぅぅぅっ♪」
 文尾の文字からだと嬉しげなように聞こえるかもしれないが、天使は少女に引っ張られているのでとても苦しげだ。
「あっ、ビビッときた、電波がきましたですぅ♪ 南、南南東にさんキロ♪」
 必死になって叫ぶ天使は、音もなく消える。いや、その音は実はあったのかもしれないが、別の音に塗り潰されたので響きはしなかった。
 人工でも自然でもない一音が残る最中、光芒を吐き出しながら韶光はそらをゆく。
 そうして、辿り着いた戦場で――少女は、女神は、またも特撮めいた怪獣に出遭った。
 両腕がハサミの怪獣さんだ。どっかで見たなと、女神は醒め切った目でその怪獣を見つめる。
 今、怪獣は咆哮をあげた。怖そうなんだけど、見た目が迫力に欠けすぎているからぜんぜん怖くない。
 だが、気力が殺がれても女神は手加減しない。
 目を見開き、背を丸め、怪獣に大口をあけ、痙攣とともに吐き出したのは宝飾品レベルの美を誇る白銀刀身。
 それは一本のまま、女神の口から真っ直ぐに、どこまでもいつまでも弾丸並の速度で伸びていく。
 打突行為なのかといえば、それは女神の意図するところではない。彼女は上半身を骨が折れてしまいそうなくらい寝かせて回る、つまり大振りな切断が彼女の本望なのだ。
 そして女神が最終演舞のために得た四つの力のひとつでもある。
「最終演舞。そう、一クールに達したから終わりなのだ」
 女神が空を仰ぎ見た、その時、


 エルザエロ・エムドエル――最後にして最強の"ラ"が、嘆きの悲鳴をあげた。
 その足元に、人間の男と識別できる死骸がころがっている。
 直前までそれは"ラ"の関心を惹き、心を夢中にさせ、いつまでも抱きしめていたいような愛しい人だった。
 今はもう動くことはない。エルザエロ・エムドエルが日に日に夢み美化しつづけた、愛しい人の浮かべたことのない笑みも、これでは現実の物に成りようがない。
 故にエルザエロ・エムドエルは泣くことに明け暮れる。人が死ぬということを知らなかったためのこの惨劇と、人の生死を輪廻を破るように繰ることができる己の力の無力さとを、悔み悔み、悔み抜くように。
 そのあまりの痛ましさに目もあてられなくなったか、または彼女の強い感情に呼応でもしたか、
 兎も角、それは彼女に抱えきれぬほどの感情の量を幾らか引き受け、彼女に立ちこめる曇りを掃うべく世界に飛来する。
 闘う事しか知らない身であったことは限り無く不運と言えよう。彼女の望まぬような事なのだから。
 だがそうと知りつつも、焦るように行う。
 彼女が何かを望んでいると、誰が言えようか――それの結論は、WHATに答えぬという、行動を起こすには明らかに矛盾したもの。
 そんなものを秘めたままでさえ、それの仕草一つは気高く猛る。
 愛も何も教えてもらっていないままだというのに、その新たな子は主への想いで突き動かされているのだ。
 笑って欲しいとでも、人間のように一途に願っているのだろうか。


 従えた暗雲を渦巻かせる其は、天空の竜。否、天空でできた竜。
 イラストモンスターの類にして、主の力の一片とは思いがたき一つの脅威。
「3Dかね……しかも、描き方が違う。以下は独り言だ。京アニ最高。以上、独り言おしまい」
 女神は呟いた。
 呟いた瞬間、三つの動作が開始される。
 "ガブリエルの翼"がその存在意義を走らせる。と同時に"バルムンク"が特有の刃を繰り出す。
 最後の一つとは、前の二つが躱された・・・・・・・・・ために必要となった・・・・・・・・・回避動作。
 だがそれは成立しなかった。なぜなら、瞬時に行われた追撃に直に当たってしまったから。
 女神に羽があるため、そして追撃が炎球だったため、まさに撃ち落されたと表現するのが妥当すぎる。女神はしばらく自由落下し、足で宙に立った・・・
 所詮、"ガブリエルの翼"は特注の推進剤でしかない。
 だがそれをもってしても、相対する敵のほうが優れていた。
「どういうことだ。まさか、これが"ラ"の本体なのか?」
 一番合致のいく予想を口にしたが最後、女神は思考の暇のない翻弄へ身を引きずり込まれる。
 敵――炎球を吐き出す、竜巻のような龍頭――は、あまりにも素早い。考慮に時間を裂き、その間は"ガブリエルの翼"を発揮せずにいた女神が一番知っている。傷が、痛みが、損失感が、敵の脅威さを思い知らせてくれる。
 上手いこと逃れ、女神はようやく苦い顔をした。抉りぬかれた右足を、いたわるように後衛へずらす。
 龍頭が女神のひ弱さを知り、小さく嘲笑った。女神はその口車にのせられるように、"ガブリエルの翼"を大きく大きく広げる。
「全力速度、」
 女神は技名のようなものを呟くが、その音は追い抜かれる。
「燕」
 龍頭にまず届いたのは、女神の一撃だ。次に技名を聞き取り、最後に女神が身を翻すのを見る。
 龍頭は、その竜巻に無数の亀裂を刻み込まれた。

 死ぬのか――
 何も為していないのに――
 それなのに終わるなど――

 亀裂が全身に巡り、爆裂するようにおもわれた。
 だがその直前、龍頭は唸り声をひとつ上げる。気迫で、訪れる死に抗わんとする。
 あまりにも無駄な愚行。
 亀裂は止まらない――
 爆裂がはじまる――
 死が――

 止まれ――
 止まれ――
 止まれ――
 止まれ――

 ――止まる

 女神の唇が"な"の形を作る。その瞬間、龍頭は炎球を吐き出した。
 女神に直撃する。零距離であったため、巻き起こる爆風には二者ともが飲み込まれる。
 爆風の中から初めに抜け出したのは、自由落下する女神。
 この度は、再び立つ力も残っていないようで、女神はいつまでもどこまでも落ちていく。
 それを追う龍頭。口蓋から紫のほむらを漏らし、残る力を振り絞り決定打を下さん。
 その牙が女神を貫く。


「体に似合わぬ素早い身のこなしと精神の幼さ。多彩な忍術を習得した体に、それを至上最高のやり方で生かす技。とくれば、やっぱり呼び名は怪人だよね!」
「や、その思考はおかしい。そこは忍者だろ。現実離れした萌え要素があるのは兎も角」
 体育の授業。体育館で、バスケットボールを行う。
 今は準備運動がてら、二人一組になって1バウンドでパスを渡し合っている。
「何でも怪人が出るって話だよ」
「怪人? なんだいそれは」
「さぁ?」
「中身のない噂かよ。もっと会話の続く話題にしてく、れっ!」
「いやいや、そうでもないのよ。ニュースでも取り上げられてさ。知ってる? ビルがいきなり粉になったり、倒壊しちゃったていう大事、っ故!」
「知らない、よっ!」
「同じ内容だけでも丸々一週間は流れてたんだけどなぁ。ちなみに唯一の目撃者がいて、最初のがその人の話した連続崩壊犯についての情報なのよ。まあ変な言動ばっかだったから信憑性は無いらしいけ、どっ!」
「……」
「ちょ。無言でジャイロボール投げ込むのやめて! ああ、ジャイロフォークまで!」
 少女と、少女をママと呼ぶ同年齢の女子生徒が、ブルマという動きやすい姿であるのを生かして活発に飛び回っていた。
 

「怪人はそろそろ潰えるかもしれないよ。どう、思う?」
 繋いだ手はそのままに、限りまでその腕を伸ばす。相方も、同じように動く。
「気をつけてくれたまえ。ママが凝り性なのは前々から知ってるから、何も言わん」
 微笑む。
「大丈夫。あとちょっとのことだ」
「ばーか。嘘ついても、私にはバレるんだからね」
 手と手が離れた。


 摩天楼の頂上は、遥か上空にある。
 そこから一足に跳び、より天空に昇るそれ――剣の女神。
 尋常でない速度で、それに気づくこれ――天空という竜、ナオ
 王は女神に、炎を三つ吐き出し、己の巨躯もぶつけにいく。
「阿呆なものだな……」
 女神は炎を総て躱す。最後の一つはぎりぎりだったが、それは計算したもの。王の身に、まるで乗馬のように飛び乗るための算段だった。
 よって、体当たりは回避したも同然。女神の位置は絶好の死角である。
「……せめて、貴様の主が私によって幸せになるのを、三途の河から見上げろ」
 真一文字に神話が刻む、黒き神の力。
 ゆるやかに世界に放散していく様はまるで夜。


 朝霧のような夜闇が去り、後には月が残った。
 ――エルザエロ・エムドエルは、生命が尽きる直前のような淡さを、絶望することでより美麗にその身に宿す。
 よって月。
 月は輝いているわけではない。太陽に照らされているだけだ。
 エルザエロ・エムドエルという月は、太陽を失った。
 純粋で、無垢で、真っ直ぐで、願いを言うことがなかった彼、
 彼を心底、思い慕っていた。逆にエムザエロ・エムドエルが願いを抱いたほどに。
 けれどどれも空回りしてばかり。
 エムザエロ・エムドエルの思い通りにいかないまま、彼は死んでしまった。
 そうして太陽をなくした月が、百人いれば百人とも絶賛するだろうほどに美しい。人の尺では計りきれぬ存在だから、そのような輝きを今も尚放つのだろうか。
みこと……」
「悲しいか、エムドエル」
 女神が尋ねた。自答は直ぐ。
「そうか。失うとは、どんな物にとっても悲しいことなのだな」
 女神は、場違いな口調で話す。もとから通りやすいのか、声が大きい。
「では、一つ提案するよ――」
 前置きひとつ。しかし女神は、横へ首を振った。エムドエルは小さく、訝しげに思う。
「私は嘘を言うのが苦手だ。あの魔女のようにスラスラとは言えない、丸め込むことはできない。今まで闘いでしか物を得なかった私では、得に、な」
 真摯な者だと、エムドエルは思った。
 だから呟いた。緑髪の女神エルザエロ・エムドエルは、
「……あなたに興味が湧きました」
「良いよ。気を使わんでくれ。私は、できれば君を癒してあげたいと思っている」
 豊かな丸みを描く腰に、同じくらいの膨らみを誇る胸に、女神の手がそっと添えられるを感じ、
「こんなことしか、できないけれど」
「……慰めてくれるのね。ありがとう」
 親しげに笑った。女神も、微笑み返した。


 天空から神園ヴァルハラへ還るように、極光の翼が虹色の粉を撒き散らして昇っていく。
 それを背に――否、桜色鏡面塗装のフルコンサートグランドピアノを前に、
 同色のイスにちょこんと腰を下ろすその少女を前に、
 先ほどまで女神だった中華な御団子頭の子が、鋭く冷たい眼光をギラつかせている。下の世界だいちから発する青白い光で、少し見にくい。
仙童神姫せんどうブリュンヒルデ
 少女が、言い連ねた。
「目つきがややきつい、でも甘え上手な猫っぽい。口調や思考が、常人離れしている。後輩系ツンデレ属性付美少女に豪快さんが乗り移った、というほうが信じられそうだ。天然物とは思えない。たまに高笑いすら浮かべるので、第一印象とのギャップに絶望して女性不信になるファン多し。
髪――うっすら茶色がかかる――は両側面にひとつずつ、お団子に纏めているだけでそれ以外は細工無し。ボディはグラマーだが、本人がそれを強調する服装をしない――フード付ジャンパーにすっぽり包まったり、女の子らしくないですよね――だけど、ファッションに無関心なわけではなく、相手方を茶化すための可愛い服装なんかは何通りか用意してある――外出時の私服なため、ゴスロリなんかは無い模様――」
「何かね。私は、分析プレイは苦手なのだが。いやそれよりも」
 子は尋ねた。
「君は誰かね?」
「……私は、♪天使です。今までも、これからも」
 少女は、子へ、恭しく膝をついた。
「計画的に物事を進める性格で、カリスマと判断力・独創性は十分あるが、感情的になりがち――というか、他人にはできない理屈で動いていらっしゃる――。時代劇好きなのか、口調がそれっぽい。
そんな個性的だけれど、力を扱う才は稀に見るもの。そんなあなただからこそ、お願いしたいのです」
 言う。それから顔を上げると、子へ確認を求める。
「気分はどうですか?」
「もちろん、最高だ。これで終わりでないと知った今だからこそ、ね」
 嘘ではない快感、理解できずとも求めてしまう夢。
 ハマってしまったから、手放すなんて惜しすぎる。――そう思い、子は言う。じょじょに熱を上げて。
「私、仙童神姫はまだまだ物足りないよ。もっとデンジャラスに、死を感じさせてくれ。ともに生を教えてくれ。私では、音に依存しているようで、正義のヒロインの名を騙るに終わるかもしれないけれど……必要と言うならば、君はなんでもするのだろう? べた誉めでも甘囁チャームでもあらゆる手を尽くして、掌握するのだろう? そんな君にとって、正義など後回しにしていい物なのなら、私は都合の良い手駒なはずだ。私が求め、君が応じる。無駄のない契約だよ。さあ、何のためらいも必要ない。私を駒とするがいい、天使」
 応えるように、少女がピアノへ向き直り、それに手を這わせた。
 小さな、小さな音からはじまった。
 それからは、波のように表情を幾つも変えて、翻弄するように大小を何度も揺るがせて。
「……ははっ」
 スイッチが入るように、子は満面の笑みを浮かべる。
 嬉しすぎて踊っている。幸せすぎて飛び跳ねている。
 声をたてて微笑みながら、落ち着きなくおどけている。
 こんなものが正義の拠り所だと、誰が思うだろうか。
 だが、確かにそうなのだ。惑星地球号を守護する正義とは、本当にこれなのだ。
 天使は先ほど、子に述べた。
『この世界を脅威から護る』と――。








13.


 ニッコリ笑顔で、擬人化した天使が告げた。
「やりました~。やっとおんぷ天使、完全復活です~♪ これでこの世界を守護できます~♪」
「や、なんか前回と雰囲気違うくない?」
「あれぇ、言ってませんでしたっけ?♪ ――この世界は、ある"怨害"≪おんさい≫の侵入を許してしまいそうなんです。私はそいつらを追い払うために来た、勇者さんですよ♪」
 第二部開幕。
「そんなことは聞いてない。ていうか前回に教えてもらったよ、省略されてたけど! ――侵入してくる敵の名を、前回のときには思いついてなかったんだってさ。だから今やり直すって、小説なんだからコッソリ手直せばいいのに」
「まあまあ、いいじゃないですかー、十行かそこらのことですしー♪ あ、そうそう、この場面の次は夏休み真っ只中に飛ぶらしいですので、急な温度変化で体調を崩されないよう気をつけてくださいね神姫ブリュンヒルデさんー♪」
「容赦ないな天使エンジェル


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