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~今にも終わりそうな小説掲載サイト~
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16.


 世界の外殻を開錠するように、その音楽はあらゆる箇所へ響き渡りはじめた。
 静寂する世界で、六の"風"と三の"光"だけは別格。その鬼ごっこを眼下に、女神は隣に居る女神へしゃべりかけた。
「すまなかったね。決戦よりレベルの低い残党狩りといっても、数で負けるから君も呼んだんだけど、今回は足りたみたいだ」
「本当よ。眠くて眠くてたまらないのに、この追い討ちはキツいわ。ヒットポイントが1くらいは減っちゃったかも」
「生憎、ベホマを使える者は肉弾戦を繰り広げていてね」
「すごいギャップね。アイドルとして人気が出そう」
「そうだ、ひとつアドバイスをしよう。私達以外はみんな寝ているんだ、どうせならたらふく休眠してはいかがかな?」
「――なぜ思いつかなかったのかしら」
 女神の片方が、風を纏った手刀で傍の空間を切りつけた。その空間は、まるで生物と化したようにくぱぁっと一本の亀裂くちを開けた。遼遠の地と空間的に隣り合い、穿たれたその狭間は遼遠の地へと繋がったのだ。
 狭間の向こう側には、ベッドが見える。どうやらどこかの寝室らしい。
「じゃあね」
 繋がりが解消されたとき、女神は一柱になっていた。
「……ほんとうに行ってしまうとはね。まあ、あまり巻き込みすぎても駄目か」
 光が風に追いつくのは至極当然のことだが、隙を見てはまた逃亡する風にも光は直ぐに衝突して、はたから見ればまるで絡み合っているようだ。
 だが、風が掻き消えるにはまだ時間がかかるようだ。
「私がゆるりと傍観していれば、いいのかな」
 女神がそう思うと同時に、"風"が二つ消えた。
 そのうちのひとつで照射される白光の兇気は、痺れを切らした"光"が全力放出したものだ。
「気を利かすというのは難しいねぇ……」


 同時刻。遥か遠くの夜の街で、滅炎がメラメラと燃え盛っていた。
 滅炎は、あの場に居ないもう一人の女神であるチョコ・L・ヴィータの主砲。太陽のネガ。はじまりの行き着くおわり
 魔力のなす奇術とは比べ物にならない威力は、しかし主に仇名す物を捉えられなかった。
 女神の目が動く。新たに向いた先で、剣客が距離を詰めんと疾駆している。
 滅炎の揺らめきは異様にも、素早くその剣客へ伸びた。
 それを見ると途端に、剣客は前進を止めて牽制するように剣を振るう。闇の衝撃波は、衝突する相手が滅炎では無力に等しい。
 しかし、そんなことは百も承知だったのだ。
 女神の視界外、つまり死角から、怨霊のごとき霧が奇襲をかけた。
 女神が気づいたのは、霧が実体を作ったためにできた影を見たから。
 対応しようにも近すぎて眼が向かない、視界外に敵がいるなら滅炎は効かない。
 女神が霧に包まれた。


 当たり前のことだが、水たまりができるほどに血が流れ出た。
 取り巻くように、霧から完全に実体へ戻った黄泉・・と滅炎に道を阻まれているはずの黒曜・・が。
「燃やしたい所を目視し、ピントが合うだけでその視点から炎が発生する。仮に逃げようとしても、視界に入る限り逃れる事はできない――その特殊能力の根源"魔眼ゼロ" とても強力ね。だから、これが無ければあなたはとても弱いのかも」
 神経が通っていないため、その眼は何も目視できないから滅炎は消失してしまっているのだ。
 弱いと吐き捨てられたチョコは、両目のあった箇所を片手で強く強く押さえつける。それで血が止まるわけでも、普通ならば無いのだが、実際にはピタリと傷が塞がってしまった。
 止血効果があったのか、と黄泉らは勘繰る。
「……いいわ。死に物狂いになって相手してあげる」
 チョコは腕をだらんと垂らし、落ち着き払った様子で小さな微笑を浮かべた。逃げるでもなく、敵二人へ向いた。
 目元を前髪が覆っているからか、頬で凝固した血が一筋の涙のようだからか、
 それは、まるで化けの皮を剥ぎ損ねた悪魔の嘲笑。


「グァ……嗚呼ぁ……」
 黒天からはらはらと降りしきる。終えられた戦いの残滓。敗者の腐肉。
 その一部は神姫への直撃コースだった。避けも防ぎもしようとしない神姫に代わって、ゴンザレスが腕を揚げ汚物を進行させない。
 原型がわかるほど一際大きな死骸、敗者の頭部が重力加速して地上に向かう。それを神姫は捉える。
 そして、小さな呻き声が漏れているのを聞き、変に思った。
 神姫には、逃れられぬような、どこにいても敵を察知できる"超感覚"を有するかのじょには、その声が満足げであるように聞こえた。


 黄泉の手がチョコの頭を掴んでいる。
 チョコは抵抗するでもなく、黄泉に持ち上げられるままだらんと全身を脱力させている。
 否、確かめる術は無いがもしかしたら生命活動が――
「ふぅ」
 黄泉は呟く。そして、手にあるものを手放した。
 彼女のつけた戦闘の残痕、眼帯と言っても語弊がないような高密度の文字列じゅいんは未だチョコの無眼を覆う。
 その呪詛はチョコの再生能力を奪う。魔眼が量産されぬようにするためのものだ。一度こびりつくと剥がすのが難しく、黄泉曰く"解除できない仕様"のようだ。
 それによってチョコの戦闘能力が回復する事態は阻止できたが、同時に、黄泉たちはより多くの魔眼を得るチャンスも失ったこととなる。
 まあ、いい。
 黄泉たちの結論は、以上の一言に尽きる。欲深くならなかったためにこの勝利があったと言っても過言ではない。
 その場にいる者らで配分し、魔眼はちょうど一人一個ずつに。それで興味が尽きたようで、二人はチョコに背を向けた。
『チョコ・L・ヴィータにメッセージを残す。私だ、仙童神姫せんどうブリュンヒルデだ』
 そのとき、チョコの腰元にくくりつけられている携帯道具から声が漏れた。
『……む。いないのか? 残すといいながらちゃんと会話したい、寂しがりやの神姫ヒルデちゃんだぞー』
「五月蝿い。何の用?」
 黄泉が応えた。声は、チョコを完全に模倣できている。
 黒曜が傍で窺う。しばらくして、神姫の声がばいばい、と伝えた。
 通話が切れ、黄泉が笑う。
「チョコ・L・ヴィータが呼び出されたわ」
「応じなければ、死が伝わってしまうね」
「逆に、これはチャンスよ。魔眼を手に入れた私なら、姿形だけでなく魔力ですらチョコ・L・ヴィータを模倣できるのだから。神姫を暗殺すれば、戦況は一気に覆るでしょう?」
 黄泉を構成する黒点が一度、分解した。
 再構築にそう時間がかからない。だが細部までまったく同じの、チョコに瓜二つな肉体が出来上がった。
 新たな黄泉は、チョコのような華麗な笑顔を浮かべた。

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