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(愁)
~今にも終わりそうな小説掲載サイト~
Author:水瀬愁
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22.
魔処は拡大に拡大を重ね、ついに世界を丸ごと飲み込むほど肥大してしまった。
日蝕するこの世で、三つの巨神が咆哮する。
その内の一つ、磔になった蜘蛛を背負う金色の破壊巨神が今まさに勝利せん。
捕らえられた獲物は、光の人。今も尚強く強く照り輝くから、触れるものを焼却してしまうはず。だが巨神はそんな報復をもろともせず、握り潰しにかかる。
淡い光を纏った美優が、弧線を一瞬に五度も描く速度でその人を掻っ攫う。そして巨神に背を向け、一目散に逃げ出した。
「おいデカブツっ!」
「……んん? ああ、俺の事か」
二つの巨神を相手にするゴンザレスが、美優の呼びかけに応じて傍まで寄った。
彼もまた、命を力にしている。錯乱した雛子とは違い、抑制に抑制を重ねて命を差し出したのだ。差し出した寿命は微量。一日短くなったとも言えない。
三つの中で最も煌々しい朱色の巨神が、三人へ天駆けた。牙のように尖った脚は虚空を踏みつけ、汚翼は二度羽ばたく。
拳撃。単調な動きではあるが、必中になりえるほど速い。必殺であることは、掠り傷なら時間がかかるが必至にして決定事項。
しかし間一髪のところでゴンザレスが他の二人を抱えて跳躍し、回避を成功させる。
攻撃がはずれたと見て取ると、巨神はピタッと静止してもう片手を振り上げた。
その手には"朱色の 運命"が。
赤き咆哮が二閃。奇しくもゴンザレスは、命を糧に再誕した神器を幾度となく踏み台にして、斬撃の筋を一瞥もせずに総て避けた。
そして、息吐く暇なく逃走を図る。
だが回り込む物がいた。緑色の巨神、八岐大蛇という神龍。
人間はその龍の牙一つよりも小さいが、大口の奥に集束していく火炎こそが攻撃手段。
直後、爆ぜた。
火炎が照射されたのではない。ゴンザレスが神龍を殴ったのだ。限界を突破した金剛力の炸裂に、神龍はあろうことか怯んでしまう。
その僥倖を見逃すはずもない。だが見逃さねばならない。味方ともども塵にしても構わないと考える、冷徹な殺戮の神がそこにいるのだから。
ゴンザレスは神器を総動員して運命の一文字を回避、そして車道に着地して二人を下ろした。
計算を開始する。
まず現状の分析。味方は一人が負傷していて一人が昏睡している。負傷の方は戦闘可能。だが全体攻撃型であるため、敵の戦闘力が段違いである今となっては無力に等しい。
敵を一瞥する。三つの神。命を代償に超象状態化している。姿がかけ離れているが、命を貴重と思うか否かの違いがあるのだから当然といえば当然である。敵が代償にした命は、虫に捕食された人間を掻き集めた、または黒曜の命だ。神は能力が平均的に高く、どれにも"鉄壁"も"金剛力"もあまり効かない。"韋駄天"が唯一の武器となり得る。避けねばならないのが朱色だ、これの速度には"韋駄天"でも追いつけないからだ。金色と緑色には対処可能である。
彼はいずれは負けると痛感する。だが時間さえ稼げば、神姫が戻ってきてくれさえすればと、彼は藁にも縋る想いで戦い続けると決めた。
空も、地も、何もかもが暗い。代償にされた命の奏でる音楽さえ誰にも届かない。
二人の想いを受けるように、神姫は立ち上がったのだ。
黄泉が戸惑い、ミストラルが微笑む。
『やっと、だな。敵ながら、助言するぞ。勝ちたければ、糸目をつけるな。
いや、この言葉は少しおかしいか。兎も角、自分の願いはこうだ。はやく君と闘いたい』
ミストラルの求めに応じるように、神姫は命令を飛ばした。
黄泉がビクンと背筋を伸ばし、従事する。剣化して神姫の掌へ。
神姫は柄をぎゅうっと握り締めると、虚ろな瞳でミストラルを睨んだ。
「――アアアアアアアァッ!」
一心不乱、猪突猛進、鬼人乱舞。
一つの斬撃は軌跡をつくらぬほど速いが、数十が重なってはさすがに軌跡がつくられてしまう。それほどの剣戟。
神姫は光になっていた。使い果たしてもいいという勢いで、命を浪費していた。
黄泉は悲鳴をあげてしまいそうだった。神姫ならばこんなことはしない。彼女ならば雄叫びなど上げない。彼女ならば寿命を削らずにこの場を打開できる。
だがどんな想いをしようとも、物語は二人の奏者のために進み続ける。
ミストラルは獰猛な笑みを顔面に張り付かせた。
防御を考えず、切ったら切り返され切られたら切り返す。
痛みで血が沸騰する。心が躍る。
『……ハハッ』
ミストラルは自然と笑い声を溢していた。
連撃の終わりを強めに放ち、できた死角へ身体を捻じ込んで一撃決殺の居合いを斬りつける――本来はそんな技なのだろう。今となっては 型のみだ。神姫の怒涛の攻撃が止んだかも確認せず、ミストラルは一撃を狙う。
そして神姫の身体は横一文字に捉えられた。
だが、神姫の横腹ギリギリを切ったにすぎない。寸前のところで、斬撃がずらされたのだ。誰の手によるものか、ミストラルは見た。
虚が極光に満たされるのを、ミストラルはまじまじと見ていた。
そして、最期の言葉をこう遺した。
『十三人は、また選別される。これは避けられない、必然だ。そして私は、待望するのが得意だ。ゆっくり、着実に、また近づくぞ――今度会うときは、私はその娘になっているかも――しれないな。覚悟――――しろ、一度っきり――――――と――――――――思うな――――――――――』
時に追いついた異世界の覇者、"怨災"ミストラル、ここに死す。
"朱色の運命"の連続切り。一度や二度ではない、数十。どれも直撃コースを描く、だからゴンザレスはどの斬撃にも神器をぶつけてコースを逸らさせ、一命を取り留める。
その一命も、神器の生成に浪費されてしまうのは必至。
長期戦ももう終盤、回復には十分すぎる時間が流れた。きちんと三対三が出来上がっている。
ゴンザレスが他の二人を抱えているのは同じだが、雛子の"器筒"の砲撃を推進剤として用いることで回避率が格段に上がった。朱色の巨神以外の攻撃なら、美優が完全回復できる。
ただの時間稼ぎというわけでも、無くなっていた。
金色の巨神と緑色の巨神は、その煌きを淡くしていた。エネルギーが尽きかけているのだ。
それらが代償とした 異形は、虫の食事の残滓である。人間一人を丸々代償にするのと等しくするには、億は要る。だがこのそれらが喰らったのはたかだが百でしかない。稼働時間が朱色のと同じはずがない。
金色の閃光と緑色の閃光が炸裂するが、ゴンザレスの"鉄壁"を貫けない威力だから回復も間に合う。喰らっても、誰も気に留めない。
逃げ続ければ次第に分が良くなる。
脅威として見ているのは、朱色の巨神のみだ。
其の神は"朱色の運命"の斬撃を飛ばし、流れるように打突へ繋ぐ。
灼熱の弾幕と、それに穴をあけて猛進してくる極太熱線が三人を襲う。
この程度の修羅場は、幾度となく切り抜けてきた。
今までどおり、適切な処理を加える。雛子が砲撃して、弾幕と熱線の威力を弱める。弾幕はこれで回復可能なレベルに弱まるが、熱線は違う。熱線にはゴンザレスが"金剛力"をぶつけた上で"鉄壁"で防ぐ。これで最小ダメージで済む。
そしてこれまでと同じく、一難去ってまた一難。巨神が三人へ距離を詰め、各々の 神刃を剥く。
追われる三人には、巨神の攻撃が大気を切る轟音を聞いた。だが誰一人として、すでに戸惑いすら抱いてはいなかった。
雛子と美優は爆貫と溶潰の砲撃で押し返し、ゴンザレスはサラリと躱す。
直後、これまでにないことが起きた。
朱色の巨神が汚翼を拡げた。翼膜に無数の" 崩玉"が生まれる。
ゴンザレスは、"崩玉"に圧縮されている攻撃エネルギーの量を感じ取る。実際に、"崩玉"は先ほどの弾幕や熱線を遥かに凌ぐ破壊力を秘めている。
そして、"崩玉"は熱線の比にならない速度で撃ち出されるのだと、体感することになる。
苦痛に彼の顔が歪むが、ほんの序曲にすぎない。たった一発しか受けていない。彼の眼には、夥しい数の"崩玉"が映る。
前の一発で"鉄壁"は紙同然と証明されている。"崩玉"を総て受けきった後のゴンザレスは、ほんとうに紙切れになっているか、もしくは藻屑か。
死の運命を科せられた彼は、最期の瞬きというように極大な光を発した。
だがそれは、彼の意思によるものではなかった。強大な力を得ても、命を使い果たしてしまっては彼の存命にはならない。彼の所業であるはずがない。
これは、彼が命を総て燃やし尽くしてしまっても構わないという別の誰かの意図が行う。爆弾を携えた者に捨て身させるに等しい。それだけの絶大な強制力と冷徹な思考ができる傍観者が居るということだ。
ゴンザレスだけでない、雛子と美優も無制限に命を磨り減らしている。代わりに溢れ出す力はどんな判断も下されず、後から生まれる力にぐいぐい押し出され、結果、三人は三つの球になる。
"崩玉"はその嵐に飲まれ存在を絶つ。三つの球は膨張を続ける。
それは、巨大な爆発をコマ送りしたようなもの。
どんな剣でも斧でも槍でも、歯が立たぬ。
朱色の巨神は、対峙する者の大いなる力を前にして喜びを隠せず、身を震わせる。
顔があれば壊れた満面の笑みだっただろう。
だが直後、巨神の震えは怒りによるものに変わった。
何処かで起きた何かに、激怒しているのか。
しかしどんな感情であれど、物語から目を離すことはあってはならぬ油断だった。
軍師は、勝利を確信できる策を投じてもきちんと終戦まで見届ける。物語が一つの筋であるのは結果論だからだと、高いところから世界を見下ろすことしかして来なかった者には解らないのか。
その隙に 彼は降り立った。
所謂『ヒーローは遅れてやって来るモノ』 彼は物語を急変させるには十分すぎる特殊能力を保有し、また時機を逃したわけでもない。丁度、これ以上はないという好機に、 彼は舞台へ躍り出た。
彼は偏方二十四面体の髪飾りを二つくくっていて、長袖のコート、ベルト付きのホットパンツ、踵の高いブーツ。ベルトと髪飾り以外は黒系で、ベルトは茶色の革、髪飾りは黄色い硝子製を思わせるもの。
彼は願いをかけた。神に祈るように。
願いとは、世界から戦いの無くなる願い。願いは力を受けて芽吹き、形を持ち、此処に顕現する。
恒久平和とは、無争とは、武器の完全放棄が要る。しかしこの場には武器があってしまう。故に形は、隔絶。終わりの知れぬ対峙に、交響してくれる希望を想う。
周囲に散布された煌きで、パズルを組み合わせるようにして建築する。建築物は、無限の記号を連想させた。
二つの空間は"天の拠り所""地の拠り所" 内なる空間ごとゆるやかに自転する。
光の拡大は、その爆発力では"拠り所"の障壁を破れぬため、三つが一つになる程度でピタリと止まった。
破壊神も名が廃る。一瞬の隙を突かれさえしなければ、この拠り所に捕らわれることもなかった。それだけの速度を持ち合わせているのだ。同じくらいに破壊力も強大であるはずなのに、無作為に激しく暴れても、障壁には傷一つつかない。
拠り所の障壁は壊すことが到底不可能。つまり、これは防御力に特化しているのだ。
二つの球状空間を繋ぎ隔てる"永遠の絶壁"は、他拠への距離は見た目とは裏腹に永遠である。だが外にいる者には何の苦労もない。 彼はストンと、その絶壁に片脚ずつ着地した。
「【シンキング・タイム】」
無限の記号を連想させるこの建築物は、 思考猶予故に時間のみが支配する。それ以外の力は無力である。
しかし、信じぬ者がいた。
朱色の弧が一瞬にして幾度も描かれる。
連続ではなく同時する剣戟音。熱波は閃光のごとく。
それでも――それでも、傷一つつかない。
破壊神から、破壊の術は失われた。そんなことが可能である 彼は、まさに守護神。
だが本当の神ではない。それを知る者が、囁いた。
「――よくやった。こやつらの方のみ解除を、慎司」
「りょかーい」
慎司がどんな仕草をするよりもはやく、ドミノ倒しのような騒音がこの場を埋め尽くして無限の記号が崩れた。片方の球が無くなったのだ。
消えた拠り所は、巨神の方。猛獣を檻から解放するような、しかし実際には違う。
拠り所に居れば存命が約束される。それと同じで、拠り所から其処へ出てしまえば死命が約束される。
なぜなら其処は、剣の女神の眼下であるから。
「【トリ・ラグナ】」
一つずつ。滅多刺しではない。
巨神は、一刀で切り伏せられる。
朱色の巨神のみ、自らの剣で防ごうとした。刀身同士が激しく火花を散らせる、渾身の鍔迫り合いだった。だが、抵抗は空しく終わり、その巨神の胸に十字架が突き立てられた。
同格の処刑を終えたその、小さな、小さな、人間のように小さなその女神は、不敵な笑みを携えていた。
この世界を満たす音楽は、この終焉を目撃していないかのように一定であった。
魔処は拡大に拡大を重ね、ついに世界を丸ごと飲み込むほど肥大してしまった。
日蝕するこの世で、三つの巨神が咆哮する。
その内の一つ、磔になった蜘蛛を背負う金色の破壊巨神が今まさに勝利せん。
捕らえられた獲物は、光の人。今も尚強く強く照り輝くから、触れるものを焼却してしまうはず。だが巨神はそんな報復をもろともせず、握り潰しにかかる。
淡い光を纏った美優が、弧線を一瞬に五度も描く速度でその人を掻っ攫う。そして巨神に背を向け、一目散に逃げ出した。
「おいデカブツっ!」
「……んん? ああ、俺の事か」
二つの巨神を相手にするゴンザレスが、美優の呼びかけに応じて傍まで寄った。
彼もまた、命を力にしている。錯乱した雛子とは違い、抑制に抑制を重ねて命を差し出したのだ。差し出した寿命は微量。一日短くなったとも言えない。
三つの中で最も煌々しい朱色の巨神が、三人へ天駆けた。牙のように尖った脚は虚空を踏みつけ、汚翼は二度羽ばたく。
拳撃。単調な動きではあるが、必中になりえるほど速い。必殺であることは、掠り傷なら時間がかかるが必至にして決定事項。
しかし間一髪のところでゴンザレスが他の二人を抱えて跳躍し、回避を成功させる。
攻撃がはずれたと見て取ると、巨神はピタッと静止してもう片手を振り上げた。
その手には"朱色の
赤き咆哮が二閃。奇しくもゴンザレスは、命を糧に再誕した神器を幾度となく踏み台にして、斬撃の筋を一瞥もせずに総て避けた。
そして、息吐く暇なく逃走を図る。
だが回り込む物がいた。緑色の巨神、八岐大蛇という神龍。
人間はその龍の牙一つよりも小さいが、大口の奥に集束していく火炎こそが攻撃手段。
直後、爆ぜた。
火炎が照射されたのではない。ゴンザレスが神龍を殴ったのだ。限界を突破した金剛力の炸裂に、神龍はあろうことか怯んでしまう。
その僥倖を見逃すはずもない。だが見逃さねばならない。味方ともども塵にしても構わないと考える、冷徹な殺戮の神がそこにいるのだから。
ゴンザレスは神器を総動員して運命の一文字を回避、そして車道に着地して二人を下ろした。
計算を開始する。
まず現状の分析。味方は一人が負傷していて一人が昏睡している。負傷の方は戦闘可能。だが全体攻撃型であるため、敵の戦闘力が段違いである今となっては無力に等しい。
敵を一瞥する。三つの神。命を代償に超象状態化している。姿がかけ離れているが、命を貴重と思うか否かの違いがあるのだから当然といえば当然である。敵が代償にした命は、虫に捕食された人間を掻き集めた、または黒曜の命だ。神は能力が平均的に高く、どれにも"鉄壁"も"金剛力"もあまり効かない。"韋駄天"が唯一の武器となり得る。避けねばならないのが朱色だ、これの速度には"韋駄天"でも追いつけないからだ。金色と緑色には対処可能である。
彼はいずれは負けると痛感する。だが時間さえ稼げば、神姫が戻ってきてくれさえすればと、彼は藁にも縋る想いで戦い続けると決めた。
空も、地も、何もかもが暗い。代償にされた命の奏でる音楽さえ誰にも届かない。
二人の想いを受けるように、神姫は立ち上がったのだ。
黄泉が戸惑い、ミストラルが微笑む。
『やっと、だな。敵ながら、助言するぞ。勝ちたければ、糸目をつけるな。
いや、この言葉は少しおかしいか。兎も角、自分の願いはこうだ。はやく君と闘いたい』
ミストラルの求めに応じるように、神姫は命令を飛ばした。
黄泉がビクンと背筋を伸ばし、従事する。剣化して神姫の掌へ。
神姫は柄をぎゅうっと握り締めると、虚ろな瞳でミストラルを睨んだ。
「――アアアアアアアァッ!」
一心不乱、猪突猛進、鬼人乱舞。
一つの斬撃は軌跡をつくらぬほど速いが、数十が重なってはさすがに軌跡がつくられてしまう。それほどの剣戟。
神姫は光になっていた。使い果たしてもいいという勢いで、命を浪費していた。
黄泉は悲鳴をあげてしまいそうだった。神姫ならばこんなことはしない。彼女ならば雄叫びなど上げない。彼女ならば寿命を削らずにこの場を打開できる。
だがどんな想いをしようとも、物語は二人の奏者のために進み続ける。
ミストラルは獰猛な笑みを顔面に張り付かせた。
防御を考えず、切ったら切り返され切られたら切り返す。
痛みで血が沸騰する。心が躍る。
『……ハハッ』
ミストラルは自然と笑い声を溢していた。
連撃の終わりを強めに放ち、できた死角へ身体を捻じ込んで一撃決殺の居合いを斬りつける――本来はそんな技なのだろう。今となっては
そして神姫の身体は横一文字に捉えられた。
だが、神姫の横腹ギリギリを切ったにすぎない。寸前のところで、斬撃がずらされたのだ。誰の手によるものか、ミストラルは見た。
そして、最期の言葉をこう遺した。
『十三人は、また選別される。これは避けられない、必然だ。そして私は、待望するのが得意だ。ゆっくり、着実に、また近づくぞ――今度会うときは、私はその娘になっているかも――しれないな。覚悟――――しろ、一度っきり――――――と――――――――思うな――――――――――』
時に追いついた異世界の覇者、"怨災"ミストラル、ここに死す。
"朱色の運命"の連続切り。一度や二度ではない、数十。どれも直撃コースを描く、だからゴンザレスはどの斬撃にも神器をぶつけてコースを逸らさせ、一命を取り留める。
その一命も、神器の生成に浪費されてしまうのは必至。
長期戦ももう終盤、回復には十分すぎる時間が流れた。きちんと三対三が出来上がっている。
ゴンザレスが他の二人を抱えているのは同じだが、雛子の"器筒"の砲撃を推進剤として用いることで回避率が格段に上がった。朱色の巨神以外の攻撃なら、美優が完全回復できる。
ただの時間稼ぎというわけでも、無くなっていた。
金色の巨神と緑色の巨神は、その煌きを淡くしていた。エネルギーが尽きかけているのだ。
それらが代償とした
金色の閃光と緑色の閃光が炸裂するが、ゴンザレスの"鉄壁"を貫けない威力だから回復も間に合う。喰らっても、誰も気に留めない。
逃げ続ければ次第に分が良くなる。
脅威として見ているのは、朱色の巨神のみだ。
其の神は"朱色の運命"の斬撃を飛ばし、流れるように打突へ繋ぐ。
灼熱の弾幕と、それに穴をあけて猛進してくる極太熱線が三人を襲う。
この程度の修羅場は、幾度となく切り抜けてきた。
今までどおり、適切な処理を加える。雛子が砲撃して、弾幕と熱線の威力を弱める。弾幕はこれで回復可能なレベルに弱まるが、熱線は違う。熱線にはゴンザレスが"金剛力"をぶつけた上で"鉄壁"で防ぐ。これで最小ダメージで済む。
そしてこれまでと同じく、一難去ってまた一難。巨神が三人へ距離を詰め、各々の
追われる三人には、巨神の攻撃が大気を切る轟音を聞いた。だが誰一人として、すでに戸惑いすら抱いてはいなかった。
雛子と美優は爆貫と溶潰の砲撃で押し返し、ゴンザレスはサラリと躱す。
直後、これまでにないことが起きた。
朱色の巨神が汚翼を拡げた。翼膜に無数の"
ゴンザレスは、"崩玉"に圧縮されている攻撃エネルギーの量を感じ取る。実際に、"崩玉"は先ほどの弾幕や熱線を遥かに凌ぐ破壊力を秘めている。
そして、"崩玉"は熱線の比にならない速度で撃ち出されるのだと、体感することになる。
苦痛に彼の顔が歪むが、ほんの序曲にすぎない。たった一発しか受けていない。彼の眼には、夥しい数の"崩玉"が映る。
死の運命を科せられた彼は、最期の瞬きというように極大な光を発した。
だがそれは、彼の意思によるものではなかった。強大な力を得ても、命を使い果たしてしまっては彼の存命にはならない。彼の所業であるはずがない。
これは、彼が命を総て燃やし尽くしてしまっても構わないという別の誰かの意図が行う。爆弾を携えた者に捨て身させるに等しい。それだけの絶大な強制力と冷徹な思考ができる傍観者が居るということだ。
ゴンザレスだけでない、雛子と美優も無制限に命を磨り減らしている。代わりに溢れ出す力はどんな判断も下されず、後から生まれる力にぐいぐい押し出され、結果、三人は三つの球になる。
"崩玉"はその嵐に飲まれ存在を絶つ。三つの球は膨張を続ける。
それは、巨大な爆発をコマ送りしたようなもの。
どんな剣でも斧でも槍でも、歯が立たぬ。
朱色の巨神は、対峙する者の大いなる力を前にして喜びを隠せず、身を震わせる。
顔があれば壊れた満面の笑みだっただろう。
だが直後、巨神の震えは怒りによるものに変わった。
何処かで起きた何かに、激怒しているのか。
しかしどんな感情であれど、物語から目を離すことはあってはならぬ油断だった。
軍師は、勝利を確信できる策を投じてもきちんと終戦まで見届ける。物語が一つの筋であるのは結果論だからだと、高いところから世界を見下ろすことしかして来なかった者には解らないのか。
その隙に
所謂『ヒーローは遅れてやって来るモノ』
願いとは、世界から戦いの無くなる願い。願いは力を受けて芽吹き、形を持ち、此処に顕現する。
恒久平和とは、無争とは、武器の完全放棄が要る。しかしこの場には武器があってしまう。故に形は、隔絶。終わりの知れぬ対峙に、交響してくれる希望を想う。
周囲に散布された煌きで、パズルを組み合わせるようにして建築する。建築物は、無限の記号を連想させた。
二つの空間は"天の拠り所""地の拠り所" 内なる空間ごとゆるやかに自転する。
光の拡大は、その爆発力では"拠り所"の障壁を破れぬため、三つが一つになる程度でピタリと止まった。
破壊神も名が廃る。一瞬の隙を突かれさえしなければ、この拠り所に捕らわれることもなかった。それだけの速度を持ち合わせているのだ。同じくらいに破壊力も強大であるはずなのに、無作為に激しく暴れても、障壁には傷一つつかない。
拠り所の障壁は壊すことが到底不可能。つまり、これは防御力に特化しているのだ。
二つの球状空間を繋ぎ隔てる"永遠の絶壁"は、他拠への距離は見た目とは裏腹に永遠である。だが外にいる者には何の苦労もない。
「【シンキング・タイム】」
無限の記号を連想させるこの建築物は、
しかし、信じぬ者がいた。
朱色の弧が一瞬にして幾度も描かれる。
連続ではなく同時する剣戟音。熱波は閃光のごとく。
それでも――それでも、傷一つつかない。
破壊神から、破壊の術は失われた。そんなことが可能である
だが本当の神ではない。それを知る者が、囁いた。
「――よくやった。こやつらの方のみ解除を、慎司」
「りょかーい」
慎司がどんな仕草をするよりもはやく、ドミノ倒しのような騒音がこの場を埋め尽くして無限の記号が崩れた。片方の球が無くなったのだ。
消えた拠り所は、巨神の方。猛獣を檻から解放するような、しかし実際には違う。
拠り所に居れば存命が約束される。それと同じで、拠り所から其処へ出てしまえば死命が約束される。
なぜなら其処は、剣の女神の眼下であるから。
「【トリ・ラグナ】」
一つずつ。滅多刺しではない。
巨神は、一刀で切り伏せられる。
朱色の巨神のみ、自らの剣で防ごうとした。刀身同士が激しく火花を散らせる、渾身の鍔迫り合いだった。だが、抵抗は空しく終わり、その巨神の胸に十字架が突き立てられた。
同格の処刑を終えたその、小さな、小さな、人間のように小さなその女神は、不敵な笑みを携えていた。
この世界を満たす音楽は、この終焉を目撃していないかのように一定であった。
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