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 全力でアホ毛を折ってみた


 泣きながら小恋が「フレイヤーー!」とアホ毛(死骸)にうずくまっていたが、
 大量破壊兵器の名と同じなのはどうだろうと俺は思う。変えるのは戦争じゃなくて栄養素の配分?




「じゃあアホ毛の無いお前は、なんで爆乳なんだ?」
 通りすがら茜に訊ねてみる。ふふんと鼻を鳴らして自慢げに話すには、男に揉まれれば大きくなるんだと。
 なんだか悲しいような切ないような遠いようなムカつくような苛立つような鼻息が荒くなるような気分だ。
 ということで全力で一揉みして逃げてみた。なぜか追ってこないし、背中を向けて逃げ始めた瞬間に甘い一声を聞いたような気がしたので、少ししてから振り返ってみる。茜は背中を丸めてうずくまっていた。
 蹴躓いた? 小恋じゃあるまいし。
 もしかしたら嵐の前の静けさかもしれないと思って、俺は再び逃避を開始した。
 とりあえず、今聞いたことを実践してみようと思う。




「ふ……ふふ……」
 精力(カロリー)を絞れ取られました。本作品を書く作家の別作品を読んでみれば、加害者は誰かだいたいわかっていただけるだろう。ちなみにどれくらいかというと、桜餅百二十個とワサビ入り五個くらいのカロリー損失。腹が減りすぎて逆に種が弾けて凄く覚醒中。
 思考が巡る。いくつものジャンル問わずにエロ画像が脳裏を走馬灯のように駆けていく。
 走馬灯も、こんな表現に使われて相当悲しんでいることでしょう。
「そういや、小恋の爆乳って……」
 茜の言うとおりなら、揉まれまくったからということになる。
 幼馴染なのにそんな……俺より先に大人になってるだなんて。俺はさぁっと青ざめた。




「なぁっ、この胸はマシマロなんだよな! そうだよな!?」
 「ナナリー!」と叫びながらうずくまっていた小恋を見つけ、その大きな風船を力強くぎゅうぎゅう揉みしだきながら必死に聞いてみた。
 しかし小恋は、あぅあぅ言いながら頬を赤く染めるだけで返答しない。
 まさか……ほんとうに、そうなのか。
 俺は愕然と、ショックを受けた。悔しくて、涙を目尻に浮かべながら明後日の方向に走り出す。
 復讐がてら引っ張って捻った彼女のやわらかみが、どこか嫌らしかった。




「よ、義之くん」
ふぇぇぇぇん。茜ええええええ。聞いてくれよぉぉぉぉぉぉ
 ふらふらはぁはぁしていた茜に泣きついた。えっちな気持ちは微塵もなしに、その豊満な胸に泣きついた。くそうくそうと、悔しさと鬱憤を晴らすつもりで激しく頬擦りまでする。
 とても暖かいと、心の奥底がほんわかしたところで般若を感じた
「兄さん。こんな道端で何をなさってるんです?」
 死亡フラグの臭いがした。振り返るまでも無い。姉とは別の方法で俺から精力を寿命ごと奪っていく妹君に、俺は覚悟を決めて振り返った。




「も、もう、これ以上は出ない……」
 嘘ぅ、まだまだ出るでしょ。と音姉が指に力を込める。
 それにビクッと反応した身体から、ポコッと桜餅がまた一つ量産されてしまった。
 ぐったりしてしまう。しかし姉妹は、嬉しげにクスクスと笑っている。
「兄さん、これは罰なんですから文句は言わせませんよ」
「そうそう。弟くん、私たちってものがありながらあんなことしちゃうんだから~。お姉ちゃん、許さないんだからね?」
 目を細める姉妹。同じ光を瞳に灯して、同じような笑みを浮かべている。その上目遣いに、ゾクゾクとくる恐怖を感じた。
 に、逃げなければ。
 俺は最後の力を振り絞って、音姉と由夢を押し退けた。きゃっという悲鳴。兄さんっという叱責。俺は、照明も付いていない部屋を飛び出して照明も付いていない廊下をどたばたと走りぬけた。
 玄関が見える。もう少し――しかし、さくらさんが立ちはだかってきた。涙目だった。片手に、水をなみなみと注いだコップを持っていた。
「復讐のしばり!」
 腰から下の感覚が消えて、俺は蹴躓いてしまう。魔法――さくらさんを見上げた。勝利の優越を瞳に映しているさくらさんを。
 二つの足音を背中に聞く。迫ってくるそれと、目の前の脅威。挟み撃ち。
「兄さん、和菓子っ!」
「弟くん、逃げた分たっぷりお説教だからね?」
「ワサビ入れた罪は重いよ、義之くん……」
 もう逃げ道はないと、俺は諦めて全身の力を抜いた。
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