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(愁)
~今にも終わりそうな小説掲載サイト~
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9.


 真っ白い天井と照明。真っ白いベッドとドア。
 風景描写、終了。――と、少女は皮肉げに考える。素晴らしい笑顔かめんの下に抱く本音を。
「大丈夫だよ。うん、寂しいなんて子供の言う事だよ。え? 病院食は薄味だけど――ふふっ。それじゃあ、メタボなお父さんのために看護婦さんからレシピを聞いとくね。先に言っとくけど、私の朝食に出しちゃだめだよ。今ならしょうゆまるのままでも美味しいだろうなー」
 面会時間開始を見計らったようにやって来た母に応対する時間、およそ四十五分。少女の笑顔はなんとか保ち続けた。気力が底を尽きかけているのか、ひとりになって途端に疲れ顔をする。
 笑顔を剥ぎ取った少女はまず長く息を吐いた。
 その後、母が無造作にベッドの端に広げたお見舞い品――着替え、ゲーム、小説――を整理しはじめる。
 途中で、ノックが鳴った。少女は手を止め、どうぞと言う。応えるようにドアノブが回り、ドアが開く。
 吾郎と真司が入室してくる。
 対し、少女は本心からの笑みを浮かべた。


 回診を終えて二人が退室した後、どこからともかく児が現れた。
 少女の居るベッドを飛び越えた一歩目に、二人を追う二歩目は続かない。児のそれは少女が阻止した。
 少女に首根っこを掴まれた児は、ぷくぅっと膨れ面をする。
「むしろ、なんでそうひょこひょこと登場してくるのか気が知れない。他の音は、こうではなかったぞ?」
「だってボクはこの小説のマスコットキャラ、だお?」
「妙な発言するな語尾もやめろ、この電波っ娘め。特に、アレな事情をかるがるしく暴露するところが憎たらしい」
 少女は溜息を吐いた。
 数拍の静寂が、訪れる。それは短くも、戸惑いと、決意とを含む準備時間である。
「――だいたい、お前は馬鹿な音だったのだ」
 少女は思い出して、言った。
 児は音達を狩猟する側の少女を、追い討ちをかけて殺すのではなく治してしまった、非常に命知らずな獲物だ。狩猟されてしまったのだから、頭が悪かったともとれる。
「興味を抱いた人間に手伝いを施すお前達の習性は、娯楽のためであり存在意義ではないはずだ」
 だが児は頭が悪いわけではなかった、狩猟の刻が訪れても抗うことをしなかったからだ。
 まるで戸惑いを抱かず、児は少女の物になった。何か決意していると、少女にはずっと不可解だった。
「なら、叶える願いは取捨選択が可能――今回のは、娯楽で収まりがつくかどうか、判断がつきそうなものだ。なぜ叶えた?」
 何を決意しているのだと、少女は問うた。
 児は花が咲くように、くすりと笑った。
「願いを叶えることしかできないのよ、私は――私たちは――大地よりも空よりも大きなこの愛を表現する方法は、願いを叶えるというものしかなかったの」
 そして歌い始めた。
 恋しさを、そして想い人を謳う、
 囀るような、響き渡るような、
 祝福のカンパネレのような、水のせせらぎのような、
 急ぐものもおぞましいものも何もない、穏やかな世界で紡ぎ生まれた穏やかな子守唄。
「――」
 児は自分の音で歌っていた。
 下を向かず、反らした胸から張り上げられる囁きは、色っぽく、しかし恥ずかしげに、奇跡の恋物語ラブストーリーをはじめから綴る。

 いつか歌うように語りかけられたらと、輝かしい日々を振り返りながら、愛されたい音は祈りを捧ぐ。
 祈る相手の神は誰か。否、神ではないのか。

 願いを叶える音は、一途に願う。
 特別な願いはどんな超能力でも叶えられない。特別な願いにおいて、音は人間のように無力だった。

 それが、児には頬が緩むくらい幸せなことだった。



 それは本能をもたぬゆえ、咆哮をもたぬ。
 まるで威厳をひた隠すように、夜にまぎれる色をして、夜を無音で駆ける。

 能ある鷹は爪を隠す、というように。
 物静かな機械仕掛け。禍々しい甲冑。

 剣に乗せる力で、陵辱または撃砕する。
 相手の破壊応力など意味を持たない。

 対するは――少女だ。
 不機嫌そうにキツい目つき。小ぶりの団子に纏めたチャイナっぽい髪型や、絶対領域すら搭載したゴスロリの服装が鬱陶しいといった様子だ。
 少女は八つ当たりをするという風に、おおぶりに投擲する。
 その猛攻を甲冑は、一瞬、盾で防ぐ風を見せる。だが直ぐ様、防御する価値すらないというように背中を向けた。
 それは正しく、甲冑の進行路線とは少しズレていた投擲物は甲冑の脇を横切ってあさっての方向へ去った。
 少女は歯を食い縛る。そして、ならばと二撃目は、甲冑にまず追いすがることからはじめた。
 彼我距離は瞬く間に、5メートル以下に。それを察したように、甲冑の推進力源が黒く光り輝いた。
 結果、少女と甲冑の距離は詰める前より長くなった。少女にとって歯痒い事実だろう、だがいつまでも負けてはいられぬ。
「――ッ」
 追いすがるというプロセスをすっ飛ばし、少女は攻撃を行った。追いすがる必要性が一体どこにあったか疑わせる、特大斬撃は滑空する。
 その黒き重みは、死を孕み、死を与える。そのために飲み込む。
 今度も甲冑は、無視の一点張りであった。射線のズレなど、飛ばされた斬撃の大きさからするに無関係である。ならば前回のようなことは、もう起こりえない。
 だが、またしてもそれは正しく――少女の一撃に、装甲は傷一つつかなかった。
 撥ね退けられた一撃の威力は甲冑を中心としたに発散。空気が震え上がる。
 冷風が吹きつけた。少女の頬をぺしんと叩く。
 追うのをやめ、留まる少女。その瞳が向く先、未明の空の終焉が地平線の際から迫り出す。
 暁光に溶かされるように、甲冑は塗り潰された。
 消失、少女からしたらとうぼうと読めるだろう。
 まるで拭われたかのように潔く、夜は朝に空を明け渡した。
 少女は――手を抜かれたと、抑え切れぬ焦燥で身の内側を焦がす。

 かくして、終わった。否、これは始まりだ。
 あの日から、それ以前からもずっと少女を見守る空の下で。


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